理念・政策・メッセージ
2023.08.08
「ALPS処理水のモニタリング施設を訪問して」
令和5年8月7日に、自民党環境部会の視察で千葉市に所在する公益財団法人日本分析センターを視察しました。日本分析センターは環境放射能に関する分析・測定を専門とする公益法人であり、ロシアによる日本海への放射性廃棄物投棄の際には日本海の調査を実施した等の実績がありますが、今回、環境省が実施する東京電力福島第一原発のALPS処理水に係る海域モニタリングを請け負うこととなっています。
実際には、処理水放出に先立ち、令和4年から環境省がモニタリングを行いその結果を公表しています。私も令和3年から4年にかけて、環境副大臣としてこの問題についてその準備作業のレクを受けてきましたが、副大臣を退任した後、今回、与党の立場で初めて実際にALPS処理水の分析を実施する機関を訪問する機会を得ました。
福島第一原発の水素爆発事故により原子炉が損傷し、地下水などが原子炉に流入し様々な核種により汚染された水は、多核種除去設備ALPSにより浄化作業が行われるものの、トリチウムだけは現在の技術では除去できず、トリチウムを含んだALPS処理水が東京電力福島第一原発に保管され続けてきた経緯がありました。
トリチウム自体は自然界にも普通に存在し、その濃度が高くなければ健康被害はないものと考えられていますが、その危険性を警戒する心理が拡がり風評被害を懸念する漁協などが溜まったALPS処理水を海洋放出することに関して反対してきた経緯があります。
しかしいつまでも溜まり続けることは処理水を保管できるタンクの容量が限界に近づき、今後の原子炉の廃炉工程の進展も左右することから、それを安全基準以下に希釈し、風評被害対策も十分に応じた上で海洋放出を実施することを政府は検討しています。
そして、政府与党を挙げて国際社会の理解を得る説明をしています。我々も7月にEU議会を訪問した折に、EU議会議員の皆様に科学的知見を踏まえた説明をしてきたところです。そして、その放出に当たっては、関係者の不安を払しょくするために、トリチウムの濃度が放出前後でどのように変化するのかについて、環境省が日本分析センターに委託してモニターすることになっています。
このモニタリングは、環境省だけではなく、事故当時者の東京電力、水産庁、原子力規制委員会、福島県もそれぞれの立場で多重的に行っています。センターにおいては、IAEAの裏付け分析を受けながら、地元関係者の要望も踏まえつつ、専門家会議の議論を踏まえた対応を行っていますが、今回の訪問で、実際のトリチウム分析の流れを辿り、分析機器を前に、詳しくご説明頂きました。
その際に、中国の分析研究機関との連携も行われているお話も興味深く伺いました。センターの川原田信市理事長からは、本連携のなかでは中国の研究者からALPS処理水の健康被害についての懸念は一切示されていないとの貴重な情報も頂きました。
しかし、中国政府はALPS処理水の危険性をことさら強調し強い懸念を表明しています。中国の原子力エネルギーに関する年鑑や原子力事業者の報告書によれば、実は中国の泰山第三原発、陽江原発など複数の原発からは、最大でALPS処理水の6.5倍のトリチウムを含む排水が海洋放出されている現状が判明しています。
私からは、中国の原発周辺の海域のトリチウム濃度調査が必要であり、その検査も日本分析センターが行えないかとの指摘を行いました。中国の出方によっては、こうしたことも今後検討しなくてはならないかもしれません。
ALPS処理水を巡る現下の状況、今後の展望を考えるにつけ、政治的思惑により科学的視点を度外視し、日本政府の対応を非難する中国政府のあざとさを再確認する日本分析センター訪問となりました。