理念・政策・メッセージ
2022.06.04
「諸外国のふるさと投票」
私は11年前にふるさと投票の仕組みを何とか導入できないかと考え、ブログでその思いを記し、党の勉強会でもその検討を訴えてきましたが、選挙制度を大きく変えることとなる大胆な枠組みの変更については聞き流されるというのが残念ながら実際でした。しかし、国勢調査の結果を受けて、衆議院選挙の区割りの見直しで、10増10減という人口の少ない地域の議員定数を減らし都市部の地域の議員定数を増やすという制度を動かさざるを得ない現実を前に、これ以上都市部の議員の数を増やし、地方部の議員の数を減らすことは政治的に妥当ではないという意見が沸き上がってきています。
一票の格差の是正が、憲法の平等原則に基づく最高裁判所の判断であるだけに、その判断は誠実に実行しなければなりません。一方で、最高裁判所の判断の前提となる、投票権について、それをどの場所で行使するのかということについて、これを定める憲法上の基準はありません。多くの皆様は、当たり前のようにそれは現住所だろう、と受け止めていますが、そのことは当然にそうあるべきとは言えないように思えます。
自分が心を寄せる地域を離れ、たまたま仕事の都合で居住し現住所を定め、また転勤で次の住所に移転する、という人がいたとします。その人が転勤で移転した先々で衆議院選挙に臨む場合に、その人の意識として、移転した先々の衆議院選挙にどれだけ愛着があるのか、ひょっとしたらその人は、自分が心を寄せる本籍地、父母の居住する地域、自分が頻繁に訪れる地域の衆議院選挙により強い関心がありうる当然想定できることです。
その場合、現住所以外に衆議院選挙の投票場所を認めないということで本当にいいのか、特に地方の人口が少なくなり都会の人口が増え、都会の声を代弁する衆議院議員がこれ以上増えていくことが日本にとって良いことなのかどうか考えていくべき時期になっています。
そもそも現行の衆議院選挙区の制度で住民票のある選挙区での投票と定めている理由は、つきつめると二重投票の防止、投票の円滑化という選挙事務を行う行政側の都合でそのように決められていると考えられています。そうであれば、それ以上の価値を体現する判断が求められるのであれば、行政側の都合を解決する手段を編み出して新たな価値に即応した制度を見出すことも考えられるべきように思えます。
その場合に、諸外国の現状はどうか。国立国会図書館「調査及び立法考査局政治議会調査室・課」に依頼して、諸外国や地域の参考となる事例を幾つか調べて頂きました。
ギリシアには「故郷帰り投票制」という仕組みがありました。「あった」というと過去の話になりますが、国政選挙、地方選挙を問わず、投票を出生地で行わなければならない制度があったのです。村上春樹氏の「遠い太鼓」」(講談社、1993)にそのことが面白おかしく紹介されています。現制度は、基本的に住民登録のある選挙区の投票になっているようですが、少なくとも1989年当時の村上春樹氏の旅行時の実態は故郷を重視する仕組みであったということです。
台湾は、日本とは逆に現住所ではなく、戸籍のある場所ですることとされ、不在者投票、期日前投票等も認められない厳格な仕組みとなっています。
英国は、選挙人名簿の二重登録が認められる場合があります。例えば、恒久的な自宅を持つ学生が通学のために、学期単位で暮らしている別の居住地がある場合で、双方の家で暮らす期間がほぼ同程度の場合には、両方の居住地の選挙人名簿に登録することが可能とされています。ただし、同一選挙で2回の投票はさすがにできないこととされています。
フランスは、これこそが「ふるさと投票」とも言いうるように考えられますが、選挙人登録ができる地は、現住所を有しているか、6か月以上居住しているか、2年連続して直接税を収めているか等のいずれかに該当する自治体とされています。そして、朝日新聞の2020年7月24日付け「フランスの「ふるさと投票」を訪ね」」という記事の中では、国民の約1割に当たる650万人が住所地とは異なる地で選挙人登録をしていると紹介されています。
更に韓国ですが、日本と同様に、一極集中の弊害が指摘されている中で、2015年に「故郷投票制」法案(公職選挙法改正案)を国会に提出していたのです。結果的には、審議未了で廃案になっていますが、その仕組みは、住民登録人口を基準に有権者を定める現行公職選挙法を改正し、いわゆる「選挙人口」を作ることを目的とした法案でした。具体的には、「非居住選挙人登録制度」を新設して、国会議員選挙で有権者が住民登録地と登録基準地(本籍)から選挙区を選択できるようにする制度提案でした。その趣旨は、農漁村地域代表の確保、学業や職場のために故郷を離れたが、郷土愛を持つ者の地域代表性確保のための制度提案でした。選挙実務上も期日前投票により居住地で投票できるため、故郷投票制は施行上の問題もなく、ICTの活用により候補者情報も入手できるとされていました。
我々は、過去において自ら作り上げた仕組みに縛られて自縄自縛に陥ることがままあります。しかし、現時点、更には将来において現行制度がそのまま続くと、日本や地域にとってどのようなことが起こるのかということに思いを馳せ、制度の在り方を考えていかなければなりません。本来は、最高裁判所の判断を覆すのであれば、選挙制度に関する憲法の規定を見直すことが王道かもしれません。しかし憲法改正は容易ではありません。であれば、現行制度の枠組みを見直すことでその課題をクリアーできないかを議論していく必要があります。
わたしも、地方の声を大事にする、有権者の心に訴える選挙区は本来どこなのか、といった観点から、政治家としてこの課題を各方面に問うて行きたいと思います。