むたい俊介メールマガジン第115号 2011.06.04
地域の声を国政につなげ
地域の声で国政を変える
〜むたい俊介メールマガジン〜
「原子力被害と賠償責任の関係」
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5月末、東京電力の長期会社格付けを「BBB」から5段階低い「Bプラス」に格下げした。銀行借り入れを含む総合的な信用力を示すもので、「投機的」な水準となった。原発の事故に伴う損害賠償の枠組みが正式決定する時期が不透明なうえ、債権放棄や既存融資の金利減免など、S&Pが「経営難に伴う債務交換」とみなす取引銀行による金融支援の見込みが高まっているためだとしている。
一方で、同じく米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスはほぼ同時期に、日本国債を格下げ方向で見直すと発表した。東日本大震災で財政負担が増え、経済の先行きも不透明になるなか、財政赤字削減が難しくなったことなどを理由に挙げている。
この背景には、原子力事故による、東電と国の損害賠償責任が膨大に上るとの懸念が背景にあることは疑いはない。そして、この賠償責任がどこまで膨らむのか、想像もつかない。相当因果関係をどこまで認めるかという法律的側面の議論があるが、果たしてこの問題は法律的視点だけで議論していいものか悩ましい問題である。
原子力事故の被災者や風評被害の被害者は、東電や政府に責任をとるように求めるが、それに際限が無くなると、結局、最終的には「国民が国民に賠償を求める」結果となっていく。そしてそれは、直ちに増税による負担が政治的に困難である場合に、結局、国債発行による資金調達という手段を通じて、若い世代への膨大な負担の仕送りになっていく。そのことをどう考えるかという国民的議論が必要ではないか。
我が国が戦争に負けた際に、戦争により大きな痛手を被った国民はどうしたか。戦争は天災ではなく人災である。判断ミスによる人災に起因する様々な被害に対してそれを被害認定して賠償していくことを我が国は行わなかった。原爆に起因する医療費を国が支援することはあったが、それは賠償とは異なる。戦没者の遺族年金も、賠償とは異なる。国は戦争被害者に関しては、非常に限定的な責任の取り方を選択した。当時の国民の殆ども、当時の悲劇を、「一億総懺悔」と形容し、ある意味で「運命」として受け入れた。
仮に、当時、戦争被害者に対して、国がそれを賠償する措置を取ったとしたら、賠償額が天文学的なものとなり、国の復興や経済発展に向けた投資などは出来ずに、恐らく国は財政的に破綻していたであろう。
今日の原子力災害に際しての被害額は膨大である。それをどの様に取り扱うのか。国は、現在、線引きを行いつつあるが、被害の全体像に対する基本的考え方を整理していくことが必要ではないか。それ無しの泥縄式の対応は、東電の会社格付けはもとより、国債の格付けが際限なく下がっていくことにつながること必定である。
個別の対応で何としても必要な損害賠償の対象事例はもちろん存在する。それを迅速に対応することはもちろん必要である。しかし、直接被害以外の被害認定に関しては、認定の結果、究極の負担者は誰であり、その対応が日本の経済社会にどのような影響を与えるのかという視点に立った見方も必要であろう。
敢えて言えば、原子力発電の将来も、この賠償責任の果たし方の帰趨にかかっていると言っても過言ではない。事故があった時の責任が青天井となるのであれば、少なくとも経済的に原子力発電は採算に合わないので、断念するほかはなくなる。失敗学の畑村洋一郎さんは、「どんな産業分野でも十分な失敗経験を積むには200年かかる」、と指摘している。原子力発電は始まってからまだ60年の開発途上の技術である。まだまだ大きな事故や事件に遭遇する可能性があり、その際の被害が余りにも大きい技術は採算に合わない。
賠償問題の帰結は、国の財政信用、国のエネルギー政策の有り様に大きな影響を及ぼすだけに、大局的な視点が必要である。
自由民主党長野県第2選挙区支部長
務台 俊介
[活動報告より]□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
5月30日 ぶどう畑でジベレリン処理の農家の方と会話。
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