むたい俊介メールマガジン第49号 2009.12.29
地域の声を国政につなげ
地域の声で国政を変える
〜むたい俊介メールマガジン〜
「信州産バイオマスを水素エネルギー源として
利用する地場産業の取り組み」
エコロジカル・フットプリントという概念があることを月尾嘉男東大名誉教授が書かれた「地球の救い方」という本で知った。一人の人間が地球の上で一年間生活するために必要な土地や水面の面積の合計をエコロジカル・フットプリント(足跡)と名付けて計算し、それぞれの国が自然環境の中でどの程度地球環境に負荷をかけているのかを示す指標だ。
日本が現在必要そしている面積は、一人当たり4.9haになるという。ところが日本人一人あたりの国土面積は0.3ha、領海面積を加えると0.6ha。必要な面積(4.6ha)から日本が日本国民に提供できる面積(0.6ha)を引くと4.3haほど赤字になる。日本人はこれを海外に依存し生存していることになる。日本は自国の空間の5倍近い海外の空間を金銭を支払って利用していることになる。この数字が意味するところは、日本は非常に脆弱な国家であるということである。
世界全体を見渡すと、エコロジカル・フットプリントは一人当たり2.7haであるのに対し、利用可能な面積は2.1haに過ぎず、0.6ha不足しているのだそうだ。この分は、貧困層の犠牲の上に成り立っているということになる。仮に世界中の人が日本人並の生活水準を維持しようとすると地球が2.4個必要となり、米国人並の生活水準を維持しようとすると地球は5.1個必要となる計算が成り立つのだそうだ。
環境問題を考えていく上で重要なのは、一人ひとり、各地域そして各国が現在の生活の矛盾を十分認識することが必要だということになる。
嬉しいことにこうしたグローバルな概念を地域発で実践しようとする取り組みが長野県内で進んでいる事例に接した。2009年11月末に、「バイオマス資源活用から地域新産業の創出を考える」というテーマの信州大学産学官交流シンポジウムに参加した。
松本市に本社のあるIHIシバウラの燃料電池装置を活用し地元の木質バイオマスを原料に水素燃料を製造するプロジェクト、日本電熱の高圧蒸気により植物材料を微細化し有用物質への転換を容易にするメカニズムなどについて説明を伺った。この地域に環境系の産業活性化のノウハウが存在していること、そしてこの地域の課題はそれらの素材を結びつけるネットワーキングのノウハウにありと実感した。
その後、IHIシバウラの事業所を訪問し、実際にこのプロジェクトを担当されておられる責任者の方から詳しくお話を伺う機会があった。高橋研究開発室長と元森開発グループ長から「信州クリーンエネルギー創造事業」という現在取り組んでいる事業構想を伺った。現状は低迷する輸出向け製造業ではあるものの、環境系ノウハウの蓄積・組み合わせにより将来の飛躍に向け高い士気にあふれていることを感じた。
IHIシバウラ自身は、燃料電池コージェネシステムという水素燃料を使用し、貯湯タンクにより地域にエネルギーを提供する設備を製造するものであるが、シバウラは単に設備製造を行うだけではなく、信州産エネルギー源を活用するという全体構想をプロデュースし、その一環としてサン工業、サイべックコーポレーションという長野県にある中小企業の独特の技術を糾合し、耐久性のある熱電供給用燃料電池の開発を行っているというものであった。
自動車搭載用燃料電池の耐久時間が5千時間であるのに対し、住宅、事業所向けのこの設備は耐久時間が4万時間と長いのだそうだ。これを可能としたノウハウに、地場企業の「冷間鍛造順送プレス工法」による金型技術があるという話を伺った。
IHIシバウラがこうした地場産業の要素技術を連結した「信州クリーンエネルギー創造事業」により実現しようとしているのは、地元にある間伐材、剪定枝、植物系廃棄物、汚泥などを集め水素製造プラントにより水素を製造し、その水素を活用した燃料電池により地域社会にクリーンエネルギーを供給するという、謂わばエネルギーの地産地消なのである。
冒頭に紹介した概念に戻ると、こうした取り組みにより、地域が自前のエネルギー源を活用できるようになると、日本のエコロジカル・フットプリントは大幅に減少することになる。そして地場産業の振興というメリットもある。この地域にある木材資源、稲藁などの農林系産物は、潜在的エネルギーの宝庫なのである。
月尾名誉教授の「地球の救い方」では、日本のエネルギー自給率は実質4%に過ぎないとの指摘もある。日本政府は原子力を国産エネルギーにカウントし自給率18%としているが、ウラン鉱石が全量輸入であることを実際は4%であるとの見方である。
このような異常な状態に甘んじていてはならない。代替資源の確保は日本の安全保障上の問題でもあり、長野県の地場産業の取り組みは、地球環境、地域産業振興、エネルギーの安全保障の問題とも深く絡んでいく問題である。「信州クリーンエネルギー創造事業」の取り組みは、まさに、「グローバルに考え、ローカルに行動する」という実践である。
務台俊介
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