理念・政策・メッセージ
2011.08.20
「原発問題と国民投票」
〜原発問題を時の政権の政局の道具としてはならない〜
菅総理がようやく退陣表明を行った。一時期菅総理は、「脱原発」を争点として解散総選挙に前のめりのなっているとの報道もなされた。その時点の一連の菅総理の言動は、周囲に十分にそう思わせる雰囲気があった。私は、東日本大震災の復興や福島第一原発の被災が収まっていない中で、原発問題を政局の材料にしようとする菅総理の政治感覚に思わず戦慄を覚えた。
菅総理は、脱原発での解散風を吹かせることで政権延命を図ったと言われた。少なくとも、原発事故前の菅総理の原発に対する無関心なスタンスから考えて、脱原発が菅総理のライフワークであるとは到底思えないことからすると、「脱原発」を掲げることで政権浮揚を志向したことは偽らざる事実であろう。
私は、国のエネルギー政策というものは国の形を大きく変え国民生活の根幹にかかわるものだと思う。日本が先の大戦に踏み切ったのは米英の対日石油禁輸措置が大きな要因だったと歴史家が指摘している。したがって、時の政権の考え方により、エネルギーの根幹にかかわる問題が短い時間軸の中で右往左往しては困る。そして原発問題はまさにそのエネルギー問題の根幹である。
原発問題を時の政権の「政治利用」から守るためにはどうしたらよいか。私は、数十年に亘って安定したエネルギー政策を構築するためには、原発問題に限っての国民投票制度を導入すべきだと考える。
法的拘束力のある原発国民投票制度を導入することは憲法改正が必要である。しかし諮問型の国民投票制度であれば法律の制定によりその実施が可能である。憲法改正の是非を有権者に問う国民投票法が2010年に施行されているが、他の国家的課題に関する国民投票制度は日本にはない。
現在の我が国で、この先数十年に亘って日本の将来の生き方を規定する最重要課題は原発問題以外にはないと言っても過言ではなかろう。そしてその原発に臨む政策を、様々な課題が満載される総選挙の争点の中で議論することは、私は国の行方を不安定にすると考える。
そこで、原発の今後についての諮問型国民投票制度の導入を提言したい。そしてその際に十分に留意すべきことがある。それは、原発問題が特に将来世代の生き方を大きく左右することから、通常の選挙年齢とは異なる投票年齢を設定することである。それは18歳或いは16歳といった年齢であってよいと考える。この仕組みがきっかけとなり、若い世代の政治参加、選挙の際の投票率アップに結び付くことも期待できる。
もう一つ必要なこと。それは、原発国民投票の前に、十分な国民的学習の時間を確保することである。原発のメカニズム、安全性、核廃棄物の処理の問題、核燃料サイクルの完結性の可能性、原発とエネルギー安全保障、経済成長との関わり、代替エネルギー確保の可能性、節電技術の発展、原子力研究者・技術者の確保、原子力発電の国際展開、電力需給ひっ迫と産業空洞化の関連、非常時の体制、国民負担といった問題について、専門家の知見を結集して国民学習テキストを作り、分かりやすく徹底的な討論を行い、全国民が原発問題の「A to Z」を完全に理解したうえで、国民投票が行われるべきだということである。
一時の感情の高ぶりの中で判断をすることは控えなくてはならない。今回の福島第一原発事故の帰趨を見極め、国民が原発問題についてより客観的に冷静に考えうる時間軸の中で、原発を国のエネルギー政策の中でどのように位置付けていくべきか、国民の意思を問うべきである。それこそが安定した我が国のエネルギー供給の在り方の模索に繋がる。原発問題を時の政権の政局の道具としてはならない。