2010年は国勢調査の年である。大正9年から5年毎に実施され今年で19回目となる調査である。日本が人口減少社会に突入する中で、わが国の未来の政策の在り方を描く上で欠くことのできないデータを得る調査である。
9月下旬、その国政調査のお知らせが安曇野市の我が家の郵便受けにも入っていた。調査委員の方が訪問する旨を予告するチラシである。
核家族化や匿名社会が進む中で、プライバシーへの自意識も高くなり、調査員の皆様のご苦労も如何ばかりかと、思わずご同情申し上げる気持ちになる。
その資料の最後に、「長野県の人口ピラミッド」が図示されていた。全国的傾向を反映するように、「日中戦争動員による出生減」、「終戦前後における出生減」、「第1次ベビーブームによる出生増」、「第2次ベビーブームによる出生増」という人口ピラミッドの増減の特徴が記されていた。それに加えて、長野県の20歳前後の人口がポコンと減っている点に関し、「県外への進学・就職による人口減」という記述が目に付いた。20歳前後の年齢階層の箇所が、鋭角に人口ピラミッドの傾斜に切れ込んでいるのである。まるで、人間の顔が大きな口をあけているような目立った切れ込みである。「派出夫県」たる長野県の面目躍如、と言えば、聞こえはいいが、高等教育を受けるために県外に若い年代層が流出する県とはどのような評価なのか。
長野県では県内高校卒業者で大学に進学する者の85%が県外に出るという統計がある。全国でも指折りの流出率である。高度な学問を受けるために県外に出る若者の意欲を否定するつもりはない。しかし、大学進学者の85%が県外に出てゆくことは尋常ではない。何かがおかしいと思うのが普通の感覚である。
県外進学のためには金がかかる。日本の教育慣習では、大学進学者の学費や生活費を親が負担する。一人県外の大学に進学させると親は年間200万円程度の負担は覚悟しなければならない。ただでさえ、収入は減少する中、子供の教育費の工面は大変である。かてて加えて、親が負担する資金は地元で活用されることはない。若者が地元で学び生活することで地元に落ちたであろうお金は都会で使われることになる。結果として地域経済の疲弊は進み、都会の経済だけが繁栄する。長野県の人口ピラミッドを見るにつけ、このピラミッドを「若者流出型」から「若者吸収定着型」に変えていく政策こそが今求められる。
今後、少子高齢化が進み、人口は加速度的に減少する。国立社会保障・人口問題研究所の、出生・死亡の将来推移によれば、中位推計の場合でも、2050年には日本の人口が9,500万人台に減少することが見込まれている。その中で、地域を支えるべき若者の多くを進学とともに都会に送り出すようなシステムを早急に改めていかなければならない。若者を出身地域で志を遂げられるような制度を仕組んでいかなくてはならない。地方分権改革はそのための重要な手段でもある。
(注)
長野県の人口ピラミッドのリンク
http://www3.pref.nagano.jp/toukei1/jinkou/nenrei/pyramid.htm
わが国の人口ピラミッドの推移のリンク
http://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/Pyramid_a.html
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