農業用水や工業用水、上下水道の構内水路などにある落差を利用した小規模な発電事例が増えている。電気主任技術者の設置義務がない10kw未満の発電に挑戦する動きも顕在化している。こうした動きの中で、大町市内のNPOが小規模水力発電を手掛けている実例を拝見する機会があった。3つの具体的実施例を立ち上げる中で、その普及・拡大に難題が立ちはだかっている現状を垣間見た。
大町市はアルプスに降る雪解け水を集め、豊富な水源を有する。扇状地を下る農業用水路は年中一定の流れを保つ。上流のダムがこの水路に農業用水とともに防火用水の機能を持たせるため放水を止めることがないからである。急こう配の扇状地に沿って雪解け水を落差工により段階状にゆっくりと流している。
この段差のある安定した水流のエネルギー賦存量は大きい。それを推計し引き出す取り組みが行われている。NPO地域づくり工房が大町市内に設置したミニ水力発電の実績から独自に試算したところでは、ミニ水力発電の潜在的設置可能性個所は8000か所、潜在的発電量は7000キロワットを超えるとされている。
水路式の小水力発電は自然環境への負荷が少なく、発電に伴う温暖化効果ガス排出量も少ない。24時間安定した発電が可能であり、天候に左右される太陽光、風力発電にないメリットもある。大町市にとっては、その置かれた自然条件にぴったりの自然エネルギー源である。
一方で、課題は大きい。1kw未満の発電であっても河川法上の水利権取得の義務付けがあり、これに多大な手間と労力を要することからその煩雑さに「嫌気」がさし、ミニ水力発電が進んでいないという実態もある。また、夜間電力が余っている電力会社からすると、24時間発電が可能な水力発電を買電するメリットは少ないと考えられ、普及阻害要因になっているとの見方もある。
そのような環境の中で、「NPO地域づくり工房」(傘木宏夫代表理事)は、大町市内に張り巡らされた水路の活用可能性を探る活動を2003年より継続してきている。水利権取得という行政手続き上の壁、身近な農業用水路での有効な発電が技術的に可能であるのかという技術上の壁に挑む取り組みを実験的に取り組んできている。
今回、ワークショップ参加者の協力により実験地を3箇所確保し実証実験を行ってきている現場を実際に見せて頂いた。その潜在的可能性は感じたものの、これをどのように普及していくかについては、やはり行政当局の全面的バックアップの必要性を痛感した。
最も成功していると見受けられた川上ミニ水力発電所(川上さん宅に設置された発電所)は、農業用水の脇に独自の取水口を作り、3枚羽のらせん水車により発電し、その電力を蓄電し、中部電力からの買う電力と併用の自家用電源として活用している。200w-250wの発電量ながら、冬季で3割、そのほかの季節は5割の電気をミニ水力発電で賄えている。このミニ水力発電所の持ち主の川上さんは、元々国鉄時代の電気技師で自らの持つ技能をミニ水力発電へ取り組みに生かしてみたいという熱意が豊富な方であった。
しかし、個人的な熱意がある人だけでは自然エネルギーの活用は進まない。それを普及させるためには、地域社会、行政をあげての取り組みが何としても必要である。環境にやさしい地域再生の大きな取り組みにもつながる。
大町市当局、あるいは長野県当局が、産業界、学会とも連携し、こうした地域ごとの特色ある自然エネルギー源の全面的活用方策についてその可能性を探り、制度上・運営上の課題を解決するための仕組みづくりにむけ、本腰を入れて取り組むことが今こそ求められている。NPO代表の傘木氏は、これまでの取り組みの中でその課題を熟知されている。問題はその解決に向けての取り組みである。
総務省では、「緑の分権改革」の一環として、地域に潜在する地域資源を最大限活用する仕組づくりへの支援を試みている。地方行政の当局者は、アンテナを高くして、たとえばこのような枠組みを活用することを一つの手掛かりとして、エネルギーの地産地消をキーワードとする地域を元気にするプロジェクトを立ち上げてほしいと思う。
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