「「マニフェストの事業仕分け」を求める」

 与党民主党政権の来年度予算要求の概算要求基準が閣議決定された。政治主導を掲げた民主党にとっては、よもやのシーリングの復活である。一般会計特別会計を併せた国の総予算207兆円の組み替えにより約17兆円規模の無駄が生み出されるとのマニフェストの記述とは全く異なり、子ども手当や農家の個別所得補償に充てる経費を生み出すために、政府一般会計予算の政策経費を1割カットしその財源を生み出さざるを得ないというものである。それでもなお、国債発行額は史上最大規模の44兆円規模を継続せざる得ないという危機的状況が続く。

 無駄を排除しさえすればやりたいことは何でもできるという幻想から政権自体が解放されたような趣きの概算要求基準の復活である。しかし、国民向けにその復活に関し十分な説明は無い。

 改めて昨年のマニフェストとは一体何であったのか。そのことに真剣に向き合わないまま、菅政権は参議院選挙の敗北を受け、消費税議論は再び封印してしまうかのような姿勢である。事業仕分けが得意な民主党が真っ先に仕分けるべきは、自らのマニフェストであることは明らかである。民主党は、「待てば海路の日和あり」で、ひたすら頭を低くして好機到来を待つつもりであろうか。

 今回の参議院選挙の与党の敗北は、消費税議論を威勢良く対外的に言明したことを世論の批判があるとみるとそれを翻し、だんまりを決め込むという政治的リーダシップの無さに多くの有権者がお灸を据えた。それが証拠に、世論の反発というリスクを恐れず消費税率10%という安定した社会保障制度構築を図るための負担の在り方に明確な姿勢を示した自民党は選挙で勝利した。

 両者の差異は、消費税問題に対するゆるぎない姿勢の有無であった。政治と金の問題、普天間基地問題や子ども手当の矛盾から国民の目をそらすという政治的意図に立って、「消費税」の問題に話題を転換しようとした菅政権のもくろみは、それが政治的パーフォーマンスにしか過ぎなかったことの浅薄さを見抜かれて有権者の離反を招いた。

 さて、このような状態の中で来年度予算編成が行われていくと国民生活に何が起きるのであろうか。現在の衆参両議院の完全ねじれ状態の中で、衆議院で予算は可決されても予算関連法案は衆議院で与党は2/3の多数までは占めていないため、参議院で否決されると国会で予算関連法律が通らず、結果として予算の執行ができない事態が想定される。

 仮に何らかの手を尽くして予算が執行可能となっても、与党がマニフェストで約束してしまった国民への金のバラマキ財源を確保するためには、政府の政策予算を大幅に切り詰めなくてはならなくなる。無駄の排除による膨大な財源の生み出しは不可能であり、必要な予算さえも大きく削り地域振興に支障を生じる事態を敢えて賭してマニフェスト予算の確保をしなければならなくなる。現在の予算の枠組みのままで予算編成が実施されると国の経済や長期的視点に立った教育・科学技術の将来はおかしくなると多くの有識者が懸念している。

 この状況を打開するには、昨年の総選挙のマニフェストの誤りを真摯に認め、予算編成過程で「マニフェストの事業仕分け」によりそれを改め、実行可能なマニフェストを作り直し、その上で、国会のねじれ解消に向けた解散総選挙を早期に打つしかない。与党が、事業仕分けを、その対象によって恣意的・政治的に使い分けることの動機の不純さ不公平さを多くの国民が認識しつつある。

 国家的危機状態が継続しているのに、国民に幻想を懐かせ、それによって奪取した政権維持に汲々とするあまり、国会が意思決定できない状態を長く放置することは国家への背信である。現在、与党民主党は、再度民意を問うという手法により、日本国の統治者としての信義を問われている。


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