「国際観光インフラが脆弱な日本」

〜松本駅前で戸惑っている外国人旅行者を見て〜

 年始の松本市内で若い外国人二人連れが19号線沿いをトボトボと歩いているのを見とがめ、近くにある私の事務所に招いた。二人はグルノーブル出身のフランス人のMOLIN兄弟で、兄が日本留学中に弟が二週間の予定で兄を訪ね長野県を訪問しているとのことであった。行く当てのない風来坊のような旅であり、ほのぼのとした気ままな様子を感じる一方で、かれらに対する観光情報の付与され方を想像するに、我が国の観光行政の貧弱さも感じざるを得ない思いに襲われた。

 観光業が国家や地域を挙げての一大産業になっている欧州では、何処に行ってもその集落の中心地には観光インフォーメーションセンターがあり、センター駐在の人が親切に案内をしてくれる。私の暮らした英国では、このインフォメーションセンターの仕組みが、英国全体でスタンダードなものができあがっており、その地域を全く知らない外国人が来てもセンターのワンストップサービスにより必要な殆どの用件が済む。英国滞在中、私が週末何度も出かけた郊外ハイキングや山歩きの際も、地図や必要な情報はそのセンターで手軽に調達できた。日本の観光政策がこれから学ぶべきシステムだとつくづく思う。

 この他に、例えばスコットランドには、VISITSCOTLANDという組織があり、ここで体系的に観光情報のインターネットサービスを行っているほか各地域でサービスセンターを設けて観光案内をしている。ホテルやB&Bも簡単にインターネットで予約でき、非常に便利である。

 欧州の旅行者は、集団旅行ではなく、一人ひとりがネット上で情報を得て旅行先を選ぶというやり方が一般的である。今回のフランス人兄弟もそのような旅行者である。

 そうした外国人個人旅行者が日本で出くわすのが、「情報不足」という関門である。例えば松本駅前には、外国人が気軽に集える観光インフォーメーションセンターは見当たらない。駅前の一等地に建つビルは空き家が目立つのに、である。これからの地域活性化のためには地域間交流、外国人旅行者誘致が不可欠であるのに、旅行者の立場に立っての対応策は極めて不十分である。

 我が国の各地域の多様で豊富な観光資源は、残念ながら大概外国人旅行者の目に届かないままに見過ごされている。私はフランス人兄弟を安曇野の湧水、穂高神社に案内した。それらは彼らが持参していた外国語観光資料には載っていない。穂高神社では偶然小平宮司に出会い、宮司自ら境内を御案内いただく機会に恵まれ、神前結婚式の白無垢姿の花嫁にも遭遇した。この偶然の出会いにフランス人兄弟は大いに感動していた。

 私自身は、たまたま出会った外国人旅行者のために僅か2時間ほどの善意観光同行役を務めただけであったが、この僅かな時間の中でも互いに一期一会の出会いの機微を感じ取ることができた。日本の地方をじっくりと旅行した外国人は美しい風景、繊細で親切な人情に感動して帰っていく。しかしそのきっかけづくりに余りにも手を抜き過ぎている。世界から観光客を呼び込んで地域振興を果たしている欧州のシステムを我が国は大いに参考にしていかなくてはならない。


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