3月22日に大町市で野上義二元外務次官、前イギリス大使を招いての「世界金融危機と地域経済」との演題の時局セミナーを開催した。150名もの大北地域からの参加者が世界経済と地域社会の相互連関のメカニズムについての野上氏の質の高い解説を熱心に聴取した。
野上氏は、「日本の経済危機の根底には政治危機がある」、とし、「日本の場合は危機を乗りきる政治メッセージが出せていない」、「百年に一度の経済危機の中で経済対策を審議するのに国会が審議拒否を行うことは信じがたい」、「英国議会は国会の議事日程は淡々と決まっていく。議事日程で勝負はしない。あくまでも国会議論を通じて議論が行われ、英国で審議拒否をしたらした方が確実に落選する」、「英国首相は週に一度の野党党首との下院での党首討論しか国会で議論をしない。日本の場合は首相が国会の委員会に張り付き、事細かな質問に応じなければならない」と、意思決定に時間がかかる日本の政治の現状こそが経済の足を引っ張っているという実態を指摘しておられた。確かに、英国の経済紙ファイナンシアルタイムズも、社説で「日本経済の足を引っ張る日本の政治」という論説を載せているくらいである。
米国のオバマ大統領の70兆円超の経済対策の相当部分が公共事業であることにも触れ、日本の場合が公共事業と政治不信がコインの裏表のように悪い印象が染みつき経済対策を打っていく上での政治的支障になっている実態を指摘しつつ、その上でオバマ大統領が経済対策としての米国の公共事業に関し、哲学・理念を以って公共事業実施を国民に説得していったことを褒めておられた。「ブッシュ政権下で、共和党と民主党の『赤のアメリカ、青のアメリカ』の二つに分断されたアメリカを再び繋ぐ(connect)ために高速道路、鉄道、インターネットの整備を行う、という哲学的説明を行っていることを重視しておられた。
その上で、野上氏は、我が国の場合、公共事業と政治不信の関係の疑念を取っ払い、新たな公共事業の哲学を構築しないといけないと力説しておられた。1,560兆円の我が国の個人貯蓄を国内に還流させる仕組みの構築こそが日本の経済再生のカギとし、貯め込んだ個人貯蓄が国内で活用されず外国に投資されている実態を指摘し、「日本は国民が汗水たらして蓄えた貯蓄を国内で活用するための方策を考えなければならない」との提言は参加者の琴線に響いていた。
特に大町市を中心とした大北地域はインフラ整備が遅れ、首都圏からの時間距離がかかる環境に置かれた中で、地域間競争に耐えられる地域づくりが急務になっている中で、野上氏による国際的視野に立った内需拡大政策の推進提言は心強く感じられたようであった。
さて、野上氏の、「日本の経済危機の根底には政治危機がある」との指摘は、国民の実感でもある。朝日新聞がこの点について3月18日付の紙面で全国世論調査の結果を発表している。その調査の中で、国民が日本の政治に対するイメージを航海中の船に例えるとどうなるかという質問があった。半数の回答が、「舵が故障して大海を漂っている」というものであった。国民の中には政治が機能していないことへの不満がある証拠である。
100年に一度と言われる経済災害とも言うべき事態の中で、政権の政治的リーダーシップ機能が政策以外の点で足をすくわれている。代替案を出すべき野党にも、国会審議は選挙目当ての党利党略で与党の足を引っ張るばかりの対応が目立つ。早期の経済対策が求められる予算審議においては、補正予算案やその関連法案の成立を真剣に議論するどころか審議拒否により引き延ばした。イギリスで国会審議をしない政党は職務放棄とみなされ国民より審判が下る、との民主主義の母国とは大きな違いである。あまつさえ野党党首への献金疑惑である。一連の政治劇の中で、自民党へは不満、民主党へは不安と不信が渦巻き、政治の羅針盤が失われつつある。
最近、各地でミニ集会を重ねる中でも同じような意見をお聞きする。「国会審議が、国民の苦境を無視した足のひっぱりあいばかりしていて、うんざりする」との声である。次の衆議院総選挙の争点は何か。私は明らかに政治への信頼性の確保、政治家の能力の向上にあるように思われる。
サブプライム問題が世界を揺るがしているが、経済危機を建て直すために今日本に求められている選択は、単純に自民党か民主党かという政党のレッテル貼りではなく、それぞれの地域として恥ずかしくない人物を国政に押し出してゆけるか否かにかかっている。政治の世界も「サブプライムではない」政治家を多く生み出していかないと激動の時代に国力が衰退しかねない状況にあることを思い知らなければならない。
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