私は予てから日本の消防団は世界に誇る素晴らしい社会的制度資源だと考えています。国会議員に当選して初めての仕事として、2013年に消防団基本法を議員立法で制定することに汗をかきました。それは、世界に冠たる消防団の仕組みが団員減少などの現状があり、そうであればそれを元気にすることが政治の責任であると考えたからです。しかし、基本法制定の後も消防団員の減少は止まらず、新たな活性化の対策が求められています。
一方で、この素晴らしい消防団の仕組みを世界に横展開できないものかと、長年考えてきました。常備と非常備の両方の実働組織がある我が国は、その運用の実態に課題があるとしても、世界に誇る制度であることに変わりはありません。2024年8月に、私が環境委員長として団長を務めた衆議院環境委員会のアセアン出張の折に、ジャカルタ市内に所在の東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)を訪問し、東アジア版OECDを目指すERIAの活動状況、海プラ問題への対応を伺いましたが、その折りに私からは、ERIA自身の任務として、環境問題の解決に当たりコミュニティを強化し環境意識を高めること、地域防災力強化に関して日本の消防団の仕組みを検討しては如何かと提案させて頂きました。
(全体の訪問記は以下に記しています。https://www.mutai-shunsuke.jp/policy382.html)
消防団のシステムを海外展開すれば、結果として消防団が使用するわが国の優れた消防資器材の輸出振興にもつながります。日本の消防団のやる気にも火が付きます。その話を懇意の消防機器業界の関係者に話したところ、早稲田大学が進めるカンボジアのシェムリアップ市の「消防団導入」の取り組みを紹介されました。3月5日の午後、その取り組みを進めている早稲田大学理工学術院長谷見雄二名誉教授からカンボジアでの消防団設立の取り組みを伺いました。長谷見名誉教授によると、この取り組みは、アンコール遺跡の修復を進めてきた早稲田大学とアンコール遺跡を市域に抱えるシェムリアップ市との長年の信頼関係の延長線上の取り組みだとお話し頂きました。
長年記憶の彼方に埋もれていたアンコール遺跡が、早稲田大学の修復支援など国際社会の協力の中で世界的観光地域となり、アンコール遺跡を抱えるシェムリアップ市は急速に発展してきました。現在では20万人規模の人口を抱える同市は、適切な建築規制、環境規制、安全規制が未整備の中で無秩序な開発が進んできているとのことです。その象徴が、人口20万人のシェムリアップ市、そして同市を抱える人口100万人のシェムリアップ州の常備消防力は30人余りの職員が10台足らずの消防車を運用するという実態なのだそうです。3交代で消防自動車を運用するとすると実質10人で100万人の人口規模の地域で消防自動車を運用していることになるのだそうです。
それに対する問題意識を持っているカンボジアの高級ホテルなどでは、高給で雇った自前の自衛消防組織を持っているのだそうですが、その消防組織には地元消防署の消防職員が引き抜かれているとのお話も伺いました。そういう現状を見る中で、長谷見氏は、公務員としての消防職員は少ないが、圧倒的に若者が多いカンボジアの人口構成を活用し、常備消防を補完する自主防災組織としての民間防災組織を組織する必要があるのではないかと思い立ち、アンコール遺跡修復の中で培った地元との信頼関係の中で、シェムリアップ市オールドマーケット地区で自主防災組織の設立を提案したとのことでした。
取り組みを始めようとする中をコロナ禍が襲い、中断を余儀なくされる中で、日本の消防機器メーカーの協力を得て、消防ポンプをシェムリアップ市に投入し、試技を行い、その上で、州政府、市当局、消防署、地元経営者を日本に招聘し、日本の消防団の現状と消防機器メーカーを訪問して廻ったとのことです。当初は、消防は公務員以外が実施することは無理があると思い込んでいたシュムアップ当局も、我が国の消防団の実態を観て、最後は、日本では何故民間人がこんなに消防活動に熱心なのかとその理由を聞いてくるようになったということでした。
シェムリアップ市の消防団の取り組みはまだ始まったばかりで、まだまだ課題は山積です。そこで、私が前述した東アジア・アセアン経済研究センターERIA訪問の際の話に戻ります。急速に発展するアセアン諸国は、地域防災の取り組みが極めて脆弱です。常備消防だけでこの脆弱性をカバーすることは無理です。そうであれば、日本の消防団のようなボランティア防災の仕組みを検討していくことが考えられて然るべきではないでしょうか。長谷見先生のカンボジアでの取り組みをしっかりと踏まえ、先ずは、アセアン諸国でモデル地区を構築し、日本の消防団の仕組みの海外展開を図ることを検討したら如何でしょうかというアイデアです。
日本の消防庁、日本消防協会、消防ポンプ協会などが中心となって、JACAの支援も受けながら、東南アジアの日本の消防団の制度移出を検討するということが考えられて然るべきです。その場合に、東南アジアの各自治体毎に、日本の自治体の消防団がその設立、運営に一対一の対口協力を行うということも考えられます。日本の消防団が国際協力も出来るということになると、日本の消防団に加入する若者のインセンティブにもなるでしょう。そして、日本の消防団が使っている消防資機材も自ずからその海外展開につながります。
日本の優れたシステムは、日本国内だけに止めず、世界展開に結びつけることが有用です。政府もそのことにもう少しエネルギーを注いで欲しいと思います。実は、この趣旨の話は、私が予てから総務省消防庁に対し、日本の消防団の機能をアセアン諸国に横展開し、途上国の防災力を地域から高める必要性を申し上げてまいりましたが、なかなか進みません。そうであれば、自らそれを実現する為に活動しなければならないと思っている次第です。
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