「戦時下のウクライナの住宅事情」
〜機動的なトレーラーハウスの投入の可能性〜

 ウクライナの戦災避難民の問題は深刻であることを、2月中旬のウクライナ訪問で再認識しました。今回お会いした10人の国会議員の中で、パウロ・フロロフ議員はゼレンスキー大統領の与党に属する議員であり、国会の中で避難民対策委員会の委員長をお務めの方で、特に避難民の住宅問題に関して強い責任感をお持ちでした。フロロフ委員長から伺った話はショッキングであり、ここで共有したいと思います。

 ウクライナでは、現在、国内避難民が500万人、ウクライナのロシア支配地の避難民が600万人、海外避難民が700万人を数え、全体で1800万人という途方もない避難民を生み出す状況になっています。避難されている皆様の生活の安定の為に特に重要なのが住宅問題であることは言うまでもありません。2023年の国連の調査では、ウクライナの350万人が住宅喪失という事態に見舞われているという実態があるとのお話も伺いました。

 これに対して、仮設住宅の設置や住宅の新築を行う必要があるのですが、ウクライナ政府は予算を戦争遂行に使っており、財政的な余裕はありません。そうは言っても、政府も手を拱いているわけにはいかないので、現在、国の土地・建物で住宅に転用可能なものがどのくらいあるのか、全国調査をしているのだというお話がありました。その数の把握を行い、使えるものがあるのかどうか、仮設住宅データベースを作り、避難民の皆様にマッチングのサービスを行うつもりだというお話を伺いました。その趣旨は、ウクライナ政府の側でも、ウクライナのリソースをしっかりと活用し、自助努力し得るところはしっかりとやっているのだということを国際社会に訴える意味もあるようです。

 我々訪問団の側からは、災害多発国日本における被災者の住宅支援の枠組みをお話しする中で、最近では、迅速対応可能なことに加え、WOTAが手掛けている自立分散・循環型の水利システムも具備した機能が充実したトレーラーハウスが開発され、被災地で実装されつつあるというシステムの紹介をしたところ、大きな関心をお寄せいただけました。

 とにかく膨大な住宅需要がある中で、どこから手を付けていったらよいのか、想像するだけで困難が予想されます。日本で開発されている仮設住宅やトレーラーハウスの費用が高価であることを心配する声も伺いました。スペックの調整、日本からの輸出はモデル的なものに止め、ノウハウや技術を提供し、現地で生産するという仕組みの構築もありうると我々からは提示しました。

 戦時下の今回のウクライナ訪問でしたが、和平の兆しが出始めている中で、復興後に向けての歩みは今から始めていかないとなりません。お会いした多くの国会議員の皆様からは、同じウクライナと言っても、地域によって住宅事情は大きく異なり、特に戦災の被害を受けたニコライエフ、ハリコフ、オデッサといった地域は、水利にも支障が生じており、自立分散型のトレーラーハウスの可能性は大きいとの認識を承りました。一方で、復興に際して世界中から避難者がウクライナに戻り、支援要員も世界各国から訪れる際に、ウクライナ全土での住宅需要が高まり、その対応を今から考えておかなければならないとの指摘もあり、我々の活動の意義を意識しました。

 ウクライナからポーランドに立ち寄った際に、ウクライナを兼轄するジェトロワルシャワ事務所の関係者ともこうした問題意識を共有し、ODAに加えて、ウクライナへの様々な分野での投資の可能性についても意見交換しました。

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