年末の税制開催の作業が決着しました。大きな話題を集めた「年収の壁」の問題については、国民民主党が強く求めた178万円への引き上げに対し、与党は123万円の引き上げで対応しました。現行103万円からの20万円の引き上げは、通常であれば大きな引き上げとの評価もあるでしょうが、国民民主党の求める水準とは大きな乖離があります。私はこの問題を静かに見ていましたが、最低賃金の引上げに連動すべきだという国民民主党の主張には賛同したい気持ちが多々あります。物価上昇分を加味するという与党の主張も一理はありますが、物足りなさは否めません。今後、更に与野党協議が行われていくという報道があり、その行方を見つめています。その場合に、私は以下の視点を強く指摘したいと考えています。
世間的な議論では、納税者の観点が強く表に出ていますが、国と地方という課税主体にとってこの問題の持つ意味が大きく異なるという点にも留意が必要だと私は考えています。私は、公務員出身ですが、特に、地方自治を重視する立場から地方自治体の財政基盤を強化する観点で仕事をしてきた経緯もあります。その観点で、代議士時代には与党税調で地方税源充実の観点での発言を多々行ってきています。
それは、所得税と個人住民税とでは税の性格が異なるということです。所得税は国の収入確保という観点に加え、所得再分配的な性格が色濃く存在します。税率が累進税率になっていることもそれを物語ります。一方で、個人住民税は広く住民の皆様が地域の会費として所得に応じて負担をお願いするという性格があります。したがって、国の経済政策により所得税の制度改正を行う場合でも、地方自治体の財政を考え、安易に個人住民税に影響を及ぼさないとの主張を我々は従来してきました。専門用語でいうと、「国税の制度改正の地方税への影響遮断」という言い方です。
そういうこともあり、実は、従来から年収の壁の要素である「基礎控除」に関しては所得税と個人住民税ではその額に差が存在していました(個人住民税のほうが少額)。
減税財源調達に関しても、国の場合は最悪赤字国債を発行し対応できますし、そもそも国には通貨発行権がありますから、その濫用は問題だとしても財源調達機能が備わっています。一方、地方自治体は、そのいずれの権能もなく、貴重な自主税源が失われた場合には、国への依存体質が更に強まり、自治体独自の政策の余地が著しく狭まります。地方自治体の関係者の懸念はそこにあります。その穴埋めに地方交付税を増やせば良いと国民民主党は指摘されますが、そもそも所得税の減税で地方交付税の原資も減る中では地方の懸念の解消にはなりません。
その意味で、今回、与党税調が所得税の基礎控除は10万円引き上げる一方で個人住民税の基礎控除を据え置くという判断を行ったのは、私は地方自治体に配慮した判断だと評価します。一方で、所得の低い皆様に対する影響で考えれば、個人住民税の税率の高いこともあり、減税額が小さくなる結果が生じますが、これは、その分、より前向きに働いて所得を増やしてもらうことで対応するということとして理解して行くのが考え方の方向かと考えています。
私は、代議士として最低賃金の大幅引上げ、全国一律化を実現する議員連盟を立ち上げ、その推進に力を注いできました。その運動も多少は影響したのか最近の最低賃金引上げが実現してきたことは嬉しいことです。一方で、国民民主党は最低賃金引上げに関して強い運動があったと記憶していません。自らの選挙公約に拘ることは分かりますが、政策の総合性に関しての配慮も必要かと思います。
最低賃金引上げに併せた課税最低限の引上げは方向性としては正しいと考えますが、国と自治体の歳入構造の差異への配慮も加えた対応であってほしいと思う率直な感想を述べました。
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