「衆議院環境委員会の越尼出張報告」
〜途上国の循環型社会実現の現場を見る〜

 2024年7月28日夕方から8月2日の夕方までの日程で、ベトナム、インドネシアに、日本の資金援助、技術支援で設置された浄化槽、ゴミ回収、廃棄物発電、リサイクルセンター、有害廃棄物処理場、海洋プラスチック対応、太陽光発電などの施設を視察して参りました。日本企業の現地法人の環境対策も視察させて頂きました。視察先の一部の施設では、削減された二酸化炭素を日本政府の削減分としてカウントできるJCMのシステムに位置付けられています。JCMメカニズムは日本の発案に依るもので、COPでも高く評価されています。それを実際に見られるということで、意気込んで28日の深夜ハノイに到着しました。

 7月29日の早朝、ホテルの部屋でシャワーを浴びたところ、バスルームの石鹸の泡で足を滑らせ、洗面台の角に前頭部をぶつけてしまいました。前頭部が傷つき出血。ベトナム大使館の継松医務官の紹介で、近くのハノイフレンチ病院の救急外来で傷口を縫合。念のためCTスキャン。異常無しを確認し、先発隊を追いかけ、ハロン湾に向かいました。世界自然遺産に登録されている景勝地ハロン湾に我が国の支援で設置されている浄化槽、海洋ゴミの収集施設の視察には間に合わなかったものの、ハロン湾管理委員会、ハロン湾を管轄するクアンニン省人民委員会との意見交換会には間に合いました。夕方、駐ベトナム日本大使の伊藤直樹大使とベトナムへの環境政策協力について突っ込んだ懇談ができました。

 7月30日午前中、ベトナム国会議事堂で国会科学技術環境委員会のレー・クラン・フイ委員長ほか5名の議員と環境政策について意見交換を行いました。ベトナムは2020年に環境保全法を施行し、国会としてもその法律の執行を監視し、政府に政策提言を行う予定だとのことでした。ベトナム側の議員の皆様の認識では、ベトナム企業の環境技術は旧式で、特にエネルギー、水問題、廃棄物処理、大気汚染に関する問題意識を吐露。これらの分野は、日本が経験技術を豊富に有する分野でもあり、協力したいと申し上げました。私からは特に、洋上風力に関する日本の今後の展開、ぺロブスカイト太陽光発電の急速な進展、ブルーカーボンという新たな吸収源対策、渋滞対策のためのLRTの導入について私見を申し上げました。そして、日越の国会環境委員会同士の交流も提案させて頂きました。昼前に、国会議事堂前にある英雄烈士慰霊碑、ホーチミン廟に訪問団で花輪を捧げさせて頂きました。昼には、ベトナムで環境系の事業展開をしている日系企業の皆様との意見交換会に臨みました。住友商事出身のタンロン工業団地川辺憲太社長、環境管理センターベトナム事業所桑原岳人副社長、JFEエンジニアリングベトナム事業所橋本智社長、堀場製作所ベトナム事業所斎藤淳社長、EREXベトナムプロジェクト担当角田知紀常務から、ベトナムにおける環境ビジネス推進に当たっての様々な課題を聞くことができました。午後、ハノイの近郊バクニン省で展開する廃棄物発電プラントを視察させて頂きました。JFEエンジニアリングの薄木徹也常務、渡部康隆現地法人副社長が施設案内。埋設処理の焼却処理への転換によるメタン発生抑制、化石燃料からゴミへの燃料転換による二酸化炭素削減効果の一部を日本の二酸化炭素排出枠としてカウントする観点からJCM事業として位置付けた経緯を伺いました。夕方、午前中に引き続き、ベトナム国会科学技術環境委員会メンバーとの夕食会に臨みました。この場で、昼に日系企業から伺った課題についてベトナム側の議員に対応を要請。その懸案は、JCMに係る日本政府の補助金がベトナム政府により法人税の課税対象になっている事態の解消を求めるものでした。ベトナム側はその場でしっかりと対応を約束して頂けました。議員同士の対話により、小さいけれど具体的な成果につながれば視察の意義が更に高まると視察団の意気は上がりました。

 7月31日は、ハノイ発、バンコク経由、ジャカルタというルートでの移動日でした。ベトナムでは伊藤直樹大使にしっかりとベトナム情勢を伺えましたが、トランジットのバンコクでは、空港にて大鷹正人大使からタイ情勢を、インドネシアでは、大使公邸にて正木靖大使からインドネシア情勢を聞くことができました。アセアンの国々も経済成長と環境保全のバランスある発展を実現することは至難の技だと改めて感じました。正木大使との話の中で、火山が多く、災害が多発するインドネシアで、日本の消防団の仕組みを自治体間交流を通じて丁寧にインドネシアに導入できれば、日本のソフトパワーが途上国でも花開くのでは、と大いに盛り上がりました。

 8月1日午前中は、ジャカルタ市内のジャカルタリサイクルセンターJRCを訪問しました。鹿児島県大崎町の技術支援、JICAの資金援助により、住民を巻き込んだ分別処理、資源化の取り組みが始まっている現場の訪問です。インドネシア政府環境林業省廃棄物総局長、ジャカルタ特別州環境局長に加え、松井嘉彦大崎町「そうリサイクルセンター」海外事業班チーフ、竹田幸子JICAインドネシア事務所長に御対応頂きました。昼前に、ボゴール県に所在の光学レンズの製造を行う株式会社nittohのインドネシア現地法人NPIを訪問しました。NASA、JAXA の仕事も手掛ける同社の子会社は、780名の現地雇用を行い、環境配慮型のレンズ研磨のシステムを造り上げていました。研磨後の排水を浄化し循環利用。因みに同社所属の大岩義明氏は、パリ五輪馬術障害飛越で団体銅メダルを獲得の快挙とのこと。午後、インドネシアのボゴール県に所在の産業廃棄物の最終処分、液体処理、リサイクル、土壌浄化、サイトサービスといった循環事業を展開しているPPLi社を訪問。PPLi社は、DOWAエコシステムの子会社でありインドネシア政府も一部出資。62ヘクタールの広大な敷地はセメント原料の石灰石を掘り起こした窪地を活用。千田善秋社長、江藤宏樹、湯本徹也両取締役から詳しく話を伺いました。利益は大きくはないけれども社会的使命により対応する姿が心の琴線に響きました。夕方、衆議院環境委員会インドネシア訪問団とインドネシア国会ゴーベル副議長、サンブディ議員、友好協会サントソ事務局長との意見交換会に参加し、循環産業のインドネシアにおける発展の具体的展開について話し合いました。

 8月2日午前中、ジャカルタ市内に所在の東アジアアセアン経済研究センターERIAを訪問し、古市徹総局長、河村玲央海洋プラスチックごみ地域ナレッジセンター長、大倉直人研究政策設計局長、アンブモジ・シニアリサーチフェローから東アジア版OECDを目指すERIAの活動状況、海プラ問題への対応を伺いました。私からは、ERIA自身の任務として、環境問題の解決に当たりコミュニティを強化し環境意識を高めること、地域防災力強化に関して日本の消防団の仕組みを検討しては如何かと提案させて頂きました。昼には紀谷昌彦アセアン大使も加えビジネスランチ。午後は、鹿島建設が手掛ける都市再開発senayan squareプロジェクトへの太陽光JCM適用について、事業者の斉藤貴裕、小林敬、淀川悠理氏から話を伺いました。午後は、日本が支援し評価の高いジャカルタの地下鉄MRTに乗車。夕方、インドネシア最大の財閥SinarMas小林真悟取締役からインドネシアで手掛ける壮大なプロジェクトを聞かせて頂きました。前日訪問したnittohの八幡誠司、牛山英俊、金子嘉晃氏も加わっての会合は、訪問団の反省会にもなりました。

 8月2日の深夜便で、ジャカルタから羽田に無事に帰国しました。富士山が穏やかな姿で迎えてくれました。私にとっては、有意義な視察であるとともに、ホテルでの負傷という予期せぬ事故に見舞われ、文字通り、心身に記憶が刻まれる出張となりました。私にとって、衆議院の常任委員会の海外視察参加は初めての経験でしたが、所期の目的を達成できたことに関し、国会事務局、環境省、外務省、大使館関係者、国際機関、ベトナム、インドネシアの国会、政府関係者の皆様に深甚なる感謝の気持ちを表させて頂きます。

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