大糸線は、赤字ローカル線として経営主体のJR東西から厳しい視線が注がれています。再編の選択肢としてバス転換が議論される可能性が取り沙汰されています。その中で、地元自治体は、イベントなどを通じた乗客増加策を検討していますが、経営主体に構造的な観点の問題意識がある中で、地元自治体の提案は対処対応であり、両者の議論はかみあっていません。
そこで、地元側としても、大糸線の在り方に対して、構造的観点からの提案を行う必要があると思っています。その観点に立って、私には腹案があります。
それは、脱炭素戦略をローカル線の在り方に組み込む考え方です。私も参加している自民党のローカル線の在り方検討会、水素社会の実現方策の検討会で、ローカル線への水素列車の実装の考え方が踏み込んだ形で提示されています。その上で、国鉄再編の折の経営主体の分割についても再検討を行うべきことが議論されています。
実は、この検討会の議論は、大糸線の在り方を想定し、私が提示し意見書に組み込まれている経緯があります。
以下その考え方の骨子を述べたいと思います。
@大糸線は、南小谷駅で以南の電化区間、以北の非電化区間に分かれ、その接続も悪く、利便性が低い。それを解決する手法として松本駅から糸魚川駅まで一気通貫の列車を走らせることがかねてからの課題であった。
A南小谷以北の路線を電化することが可能性としてはあるが、架線を整備し、架線分だけトンネルの容量を拡充することは多大な設備投資を必要とする。大幅な赤字を抱える大糸線の経営主体がそれを実現することは現実的ではない。
Bこの懸案を打開する新技術が実装段階に入っている。JR東が川崎で実験を行っている水素列車hibariである。水素列車は、列車に設置された水素燃料から燃料電池発電を行いその電気で運行するというものである。水素列車投入により架線は不要となり、その維持管理に要する膨大な経費が不要となる。トンネルも今のトンネルをそのまま使える。JR東はこの水素列車を2030年に全国のローカル線に導入を予定している。
Cこの水素列車を大糸線に投入すれば、松本駅と糸魚川駅を直行運転が可能となり、いずれ北陸新幹線が大阪に延伸することを見込むと、関西、北陸方面の客が、大糸線経由で大北地域、中信地域に大勢流れ込むことが見込まれる。
D更に、脱炭素の観点から言えば、大北地域は日本で最大規模の水力発電の可能性を誇る地域である。小水力由来の発電によりグリーン水素を生産し、それを大糸線を走る水素列車に供給することは、脱炭素連略からも評価を高めることになる。
Eこの構想が実現すれば、南小谷駅でJR東とJR西に分かれている大糸線の経営主体の統合も当然の議論となる。私案では、松本糸魚川間の大糸線はJR東が一体的に管理すべきものと考えている。
Fこの構想を実現するために、環境省が用意している脱炭素先行地域のモデルとして大糸線沿線自治体を指定することが考えられる。大糸線本体に関しては国交省のローカル線整備の為の公共事業のスキームを活用し、大糸線に再エネ由来の水素を供給する事業に関しては、脱炭素先行地域のスキームを活用することが想定される。更に、GX投資の枠組みに列車への水素搭載を組み入れるということも検討できる。
G以上の考え方は、国交省鉄道局、JR東、JR西、長野県知事、地元自治体首長に伝えており、現時点で必要とされるのは、地元自治体としてその構想を推進する体制を構築することである。
令和6年に向けて、私自身も行動し、以上の構想を実現するためのステークフォルダーの組織的枠組みを作っていきたいと考えています。
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