3月21日、茅葺、茅採取がユネスコ無形文化遺産への登録が行われたことを記念するフォーラムが熊本県で開催されました。日本茅葺き文化協会が主催のこのフォーラムには、茅葺き文化伝承議員連盟を代表して議員連盟幹事長の坂本哲志地方創生担当大臣と議員連盟事務局長の私も参加させて頂きました。5時間に及ぶ茅葺き振興に取り組んでいる当事者の議論の中で、我が国にとっての茅葺き文化の意義とその価値、その伝承に当たっての課題について多方面からの問題意識が共有されました。
主催者の安藤邦廣日本茅葺き文化協会代表理事からは、火山列島の土壌が育んだ少なくとも1万3000年前に遡る、我が国の茅利用の歴史があること、茅葺きを屋根葺きに利用することで30年間にわたり炭素を固定するという地球温暖化対策につながる現代的価値があること、茅葺きは「豊葦原、瑞穂」の国と言われるほど皇室行事との関係が極めて深いこと、欧州では茅葺きが現代建築に復活を遂げていること、茅葺き復活に向け人材育成の必要性、建築基準法、消防法などの規制の緩和の必要性が問われていること等が指摘されました。
茅葺き文化伝承議員連盟の坂本哲志地方創生担当大臣からは、茅の一大産地の阿蘇地域を選挙区に抱える立場から、茅利用が地方創生に直結する課題であること、大嘗祭において1300年の歴史のある大嘗宮の茅葺きが令和への御世替わりの際に省略されたことは文化の歴史において大きな汚点となったこと、茅利用文化を後世に継承するために基本法の制定による担保が必要であること等が指摘されました。
万葉集の日本の第一人者である上野誠奈良大学教授からは、「秋の田のかりほの庵のとまをあらみ我が衣手は露に濡れつつ」などの万葉集に詠われた日本の歴史と茅の強い関係性の紹介があり、「つくる」、「こもる」、「こわす」という皇室に関わる宗教行事に茅葺きが深く根差している解説が行われました。そうした背景から、平成から令和への御世替わりの際の大嘗宮造営に当たり1300年の伝統を簡単に覆し茅葺きが板葺きに変更されたことの問題の重大性を指摘されました。
著名な建築家の隈研吾氏からは、コンクリートと鉄を素材として使ってきた近現代の建築が結果として人間のストレスを与えてきた反省を踏まえ、これからは茅をはじめとした自然素材を建築に生かしていくことが主流となることが必然であり、茅葺きを現代建築に生かしていく可能性について自らの取り組みを紹介しつつ意思の表明がありました。そして、新型コロナウィルスの蔓延は、その動きを加速するインパクトを持っていることにも言及しました。
それに引き続くパネルディスカッションの中で、島谷幸宏九大教授からは、グリーンインフラとしての阿蘇の草原の価値について、阿蘇の草原から筑後川などの河川を通じて栄養素が有明海に流れ込み海産物の生産を支えていること、日本全国で草原が廃れ森林化が進んでいることは生態系に悪影響を及ぼしていること、これは明治以降、入会地が町村林に編入されてきたこととも関係していることなどの指摘がありました。
山内康二阿蘇グリーンストック副理事長からは、阿蘇草原の入会権組合の草原管理の中で、有畜農家の減少により火入れのマンパワーが不足し、今は草原維持をボランティア>の草原保全活動に依存しつつある実情の紹介がありました。実際に茅葺きのビジネスを行っている植田龍雄阿蘇茅葺工房代表からは、茅利用が循環型社会の象徴的事例であるとの思いがあること、その為に茅葺という家業を引き継ぐ決意をしてきたこと、それを息子にも引く次ぎたいこと、一方で全国で茅葺職人が200人を割り込み、茅葺き文化が伝承できない事態に対して危機感を覚えていることといった問題意識の表明がありました。
自らが宮司として国宝指定の茅葺き建物を維持している青井阿蘇神社の福川義文氏からは、素材不足、職人不足の中で今後の神社の茅を維持する懸念が表明されました。阿蘇を管轄する環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所長田村努氏からは、国立公園管理の立場からも茅文化を継承できる国立公園の運用を図っていくこと、国立公園に関しては保全と利用の両立を図る方針が示されました。
最後に、日本茅葺き文化協会の上野八弥智代事務局長からは、欧州や南アフリカの茅葺き建築の事例の紹介があり、その佇まいのあまりの優雅さに参加者に騒めきが拡がったことが印象的でした。
以上の講演者のプレゼンの後で、参加者相互の自由な発言がありましたが、茅利用の火災への備えの在り方、茅利用に伴う共同作業により共同体復活につながる可能性、建築基準法や消防法の規制の在り方が茅などの自然素材の利活用を制約してきているとの認識、人材育成の緊急性と重要性等について認識が共有されました。
フォーラムの最後に、茅葺き文化伝承議員連盟事務局長の私からは、今回のフォーラムを通じて共有された課題と論点を解決するための枠組みを作っていく必要性、その為には茅葺文化をしっかりと伝承できるようにする基本法を作りそれを背景に公的支援により伝統建築技術の継承を下支えしていく取り組みの必要性、その為には茅葺文化が如何に我が国にとって重要な意義あるものであるかをより多くの皆様に認識してもらう必要性、それを広げるために茅葺き文化協会や我々の議員連盟が最大限の活動を行っていくことが求められることを表明しました。
今回のフォーラムに参加して、私自身も、茅葺きという日本の伝統が、実はこれからの地球環境にとって最も重要な要素である循環型社会の典型事例であることを認識し、茅文化の伝承を日本だけでなく世界に訴えていく努力を続けて行かなければならないと決意を新たにしました。
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