「「ウィズコロナ」、「ポストコロナ」の社会像について」

 自民党の様々な政策勉強会の中で、コロナ後の社会の在り方について議論が始まっています。私も自分なりに考える社会の在り方のイメージ、それを実現するための処方箋のいくつかについて拙いながらも意見を提示しています。それを皆様にも共有します。

 フランスの社会学者エマニュエル・トッド氏がコロナ後の世界について、・金の流れをグローバル化してもいざという時に生活は守れない・この経験が社会の不平等を是正しようという方向につながる可能性・効率的で正しいとされて来た新自由主義的な経済政策が人間の命は守らないしいざとなればその経済自体をストップすることでしか対応できないことが明らかになった、・生活に必要不可欠なものを生み出す自国産業は維持する必要があると語っています。

 全く同感です。政治の方向性も、地域完結性、地産地消、リダンダンシー重視、地域社会維持・重視、国の枠組み重視といった内政の課題を重視する観点が必要だと考えます。最近ではエッセンシャルワーカーという言葉を頻繁に目にすることが多くなっていますが、社会的意義のある産業の重視といった方向にシフトが必要です。農業の位置付けもより重くなるし、そうしなければなりません。多国間貿易交渉についてはこうした国の基本を踏まえたものとしていく必要があります。内政が充実し、国民の生活をゆとりのあるものにてこそ、世界に対して強い立場で発信し貢献できるものと考えます。

 国土構造の在り方も当然のように変わってきます。日本の宿痾である一極集中を如何に是正するか、これはもはや机上の空論ではなく、現実に切羽詰まった課題に浮上し、多くの若者も移住をはじめとして真剣に地方との接点を求め始めています。

 国政の課題として、こうした時代の構造変化を大きくけん引する制度の束を作り上げる必要があります。

 以下、私が考える政策のいくつかを提言します。

1 一極集中の是正

 一極集中の是正がその骨格となる政策です。特に若者の東京集中は体系だって是正する必要があります。大学の首都圏域の集中は10年間をかけて是正しなければなりません。首都圏の大学はサテライトキャンパスを国が割り当てた地方に設置することを義務づける必要があります。教養課程の2年間、学生は地方で生活し勉強する制度を作り上げるのです。それを拒否する大学には助成金を交付しないという担保を制度化することでこれは実現できます。キャンパスづくりには国の助成を行い、できるだけ既存の建物を活用することも検討できます。東京理科大の長万部キャンパスはその先行事例です。

 大学時代に地方で暮らすことに加え、幼稚園、小学校の時代から地方に馴染むような政策が求められます。森の幼稚園の推進、子供たちの農山漁村体験教育の制度化などをしっかりと進めることがそのための手段になります。

 大人になってからは、都会から地方への移住の促進、地方の関係人口を増やしていくことも必要です。都市と農村の二地域居住も推進すべきです。その場合、都市と農村のいずれかに住所を有するか、住所の在り方についても弾力的な考え方を持っていくべきです。選挙権をどこで行使するか、都会に住んでいても本籍地の地方で選挙権を行使するといった選択性も認める議論もあってもよいと考えます。

 都市と地方間の移動経費を軽減することも一極集中是正につながります。公的支援で移動経費を軽減する議論も進めるべきです。

 現在は、地方より都会で働いた方が収入が多く、生活保護や最低賃金の基準単価も都会の方が高い状態です。これでは、「国が地方に住むと貧乏で良い」と国が言っているようなものです。逆に、地方で住むほうが収入が良くなるような国の制度を作り上げていく必要があります。それにより優秀な人が地方に分散すれば、企業も地方に移っていく流れができます。

 劇薬かもしれませんが、東京圏に本社が所在する大企業には特別の国税を付加することがあってもよいと考えます。それを財源として地方創生の資金として活用することが考えられます。10年たつと、企業の地方分散が確実に進むことになります。

2 コミュニティ、地域社会

 働き方改革でテレワーク、在宅勤務が増え、満員電車での通勤時間分の時間的余裕が生じて来ることが見込まれます。その空いた時間をコミュニティの為に一部割いてもらうことが求められます。消防団に18歳から30歳までの間、2年は加入してもらうこととする、町内会へは全員義務加入するといったことも考えていく必要もあるでしょう。特に、巨大災害が迫っている中で国や自治体の支援に頼ってはいられない事態が生じる。その際に頼りになるのは地域の共同体です。自主防災組織の活動を体系だって中身のあるものにしなければなりません。これらを進める国と地方の体制整備を行うべきです。

 地元の高校、特に農業高校や工業高校を活用し、働き盛りの現役時代から、農業、料理や土木関係のノウハウを身に着ける教育を行うことも地域社会を元気にする手段です。地域に役立つノウハウは、講釈の能力ではなく何かに役立つ技術を持つことにあります。

 職場から離れたOBも、例えば学校現場や塾で子供たちを教える立場を付与することも考えるべきです。本人の為にもなるし子供達も人生の先輩の話を聞けることは得難い機会です。何よりも現役の先生の負担も減らせることになります。

 地域社会で暮らす人たちが、何らかのサークルに最低3つくらい入ることで社会的絆は深まります。それを支援する仕組みを作っていく必要があります。謂わば「ソシアルキャピタル」構築支援とも言うべきものでしょうか。

 クラインガルテン、ダーチャといった市民農園の存在が社会の安定に貢献していることはよく知られています。農業者の支援を受け、こうしたことをさらに普及することも考えられてよいと思います。

 義務教育学校に、学校田、学校林を復活し、子供のうちから農業に親しむ機会を作っていくことを考えて行くべきです。

 人口急減地域の小中学校の存続を期すために、域外・域内の山村留学を支援することが考えられます。そのための寄宿舎の整備、受け入れを支える「育てる会」といった団体支援、山村留学生の公的支援も制度化して行くことが必要です。

3 SDGs、ESG投資の一般化、公益資本主義への脱皮

 コロナ後の新たな日常を実現するために民間の力は欠かせません。各企業の売り上げの1%、或いは利益の5%をSDGs支出やESG投資に向けるという数値目標設定することも考えられます。その実績を政府或いはNPOがとりまとめ、毎年ランキングを公表することも考えて行くべきです。各企業のサテライスオフィス設置、テレワーク実施率などもランキングを公表することも考えらます。障碍者法定雇用もしっかりと達成し、農福連携での特定事業所の中山間地での利活用を促進することも必要です。社会的評価を気にする企業のマインドを常態化すべきでしょう。

 こうした取り組みの延長線上に、現在の強欲資本主義的実態を改め、公益資本主義とも呼べるような経済活動の在り様を求める方針を政府全体で作り上げる必要があります。

4 幸せの再定義

 以上の個別政策を積みげていくと、人々の気持ちが、立身出世や金儲けではなく、地域社会の中で必要とされていることに幸せを感じるようになってきます。もちろん若いうちは世界を股にかけて活躍したり、ビジネスで頑張っていくことも必要なことではあります。しかし、それ以外の人生の時間は長い。個々人の人生に与えられた時間を、その時々に応じて如何に過ごすか、地域社会との関係性の中で過ごすことの意義を再認識することが幸せの再定義につながるし、日本国中が元気になる鍵でもあります。そういう価値観を学校教育の中で位置づけることも必要なことです。

5 プラスマイナスの影響

 以上例示した施策については、社会全体にとっては長い目で見てプラスの効果は大きいと考えられます。日本の国土構造のリダンダンシーが増すことによる効果も大きいと思います。一方で、東京一極集中によって利益を確保してきた関係者にとっては大きな影響があることも事実です。東京の不動産価値は下がるかもしれない。労せずして地方の若者を集めてきた大学は学生募集に窮するかもしれない。しかし、これらを10年から20年かけて実施していくことにより、その影響は緩和できます。新型コロナ禍により、茹で蛙状態にあった日本が、今の脆弱性にハッと気が付き、行動変容を促されたとポジティブに考えていかなければなりません。

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