「コロナ禍とあるべき財政政策」

 コロナ禍の支援策で日本も欧米と同様、空前絶後の規模の財政出動に踏み出していますが、これまで政府債務を減らさないと財政破綻すると主張してきた財務省をはじめとした政官財そして主流経済学者の多くが何故か沈黙を保っています。今は危機であり緊縮財政どころではないということでその主張を自粛しているのかと思いきや、実はデフレの日本で政府債務が積みあがると財政破綻が起きるという理屈そのものが誤った理論ではないかということが最近指摘されてきています。

 欧米で政府の負債が増えている中で、世界的には金利は低下し、マイナス金利となっていることも珍しくありません。財政破綻とは、累増した債務の金利が上がり借金を払いきれなくなることから生じる事態であるはずですが、その事態は生じていません。もちろん最近で言えば、アルゼンチン、エクアドル、レバノンなどの債務不履行に陥った国はありますが、これらの国は外国から借金をし財政資金を得る中で、自国通貨が暴落し外貨建ての元利払いができなくなっているという事情があります。日本のように国債のほとんどを自国通貨建てで発行し、国内消化できている国とは事情が異なります。

 国債を発行しても、金利が上がらず、財政支出により人々の暮らしや景気の下支えをできるのであれば、財政赤字を厭うべきではないという考えが最近広がっています。本当に大丈夫か、という心配の声もありますが、それに対してMMT(現代貨幣理論)が理論的整理をしています。私も国内外の学者の考えを伺い、著作物を読み、それなりの認識は持っているつもりです。

 今の現状がインフレであるのであれば、インフレ対策として、需要を抑制するために、緊縮財政を実行し、増税し、供給力強化のために競争促進、自由貿易・グローバル化を促進すべきであるが、デフレ下の現状では、供給過多であるから需要を刺激するデフレ施策が必要で、そのためには積極財政、減税、規制強化、自由化・グローバル化の抑制が必要であるとの説明です。

 平成時代の日本の問題は、デフレ下にも拘わらず、デフレ政策ではなく、インフレ政策を継続してきたことが失敗であったとの総括です。財政再建を金科玉条とし、プライマリーバランスの均衡、公共事業抑制、社会保障経費抑制、消費税増税という財政健全化路線が、実は日本の経済成長を阻む自縄自縛の施策だったという総括です。

 その政策の根拠となる法律は財政法で、同法4条には「国の歳出は国債に頼ってはいけない」という均衡財政原則が規定されています。例外の但し書きはありますが、この法律に沿って財務省や主流派経済学者は均衡財政論を主張し続けてきました。最近知ったことですが、実はこの規定は、赤字財政は戦争につながるのだという論理から、憲法9条の戦争放棄を国家財政の面から裏書保証するために盛り込まれたものとの経緯があるのです。その意味では、財政均衡論も、憲法9条のように、疑うことも許されないイデオロギーのような存在だったのです。仮にそれが古めかしい思想でも、イデオロギーや信念自体を変えることはなかなか難しいことを我々は経験的に知っています。

 戦後から40年間は、インフレとの戦いの時代であり、この均衡財政論は正しかったと言えます。しかし一転、デフレに悩まされた平成時代は、実はこの均衡財政論は正しい論理ではなくなっていたということになります。しかし、財務省も主流派経済学者も途中で考えを変えるわけには行きませんでした。

 振り返れば、私自身もそうでした。現役の公務員時代には「入るを量りて出るを制す」、「出るを量りて入るを制す」という歳入(税)と歳出のバランスを考えるのは当然であるという、一種の財政道徳、倫理のような意識を持って税制改正や予算の積み上げ・査定などの作業に携わってきました。個人の家計の延長線上で国会の財政も捉えていました。しかし、自国通貨建てでの国債発行という手段は、その財政道徳の制約を乗り越えるパワーを持っているのだという議論に接し、最初は戸惑い混乱しましたが、様々な財政指標の推移を見るについて、少なくとも今のデフレの状況下においては機能させてもしかるべき理論のように受け止めています。

 財政出動を通じデフレを克服し、経済成長を実現し、少子化対策のために公共サービスを充実させれば、子供を持つことに躊躇している若い夫婦の琴線に響き、人口の減少も軽減できます。財政健全化路線が、却ってその対策を妨げて来てしまいました。ましてや今は、コロナ過で需要が蒸発してしまう危機的状況です。蒸発した需要を埋め、国民が将来に向け希望を見出せるように、国債発行を躊躇せず大胆に行い、思い切った積極財政を今こそ打たなければなりません。

 仮に、一連の財政政策の結果、経済成長が実現し、インフレ基調が定着する場合には、その時こそ歳出を抑え、増税を行い、インフレの頭を押さえるインフレ対策を講じていくことが必要です。そのためには、インフレ時には、弾力的に増税ができるような硬直的でない仕組みが必要です。今は、一度減税すると再度増税する場合に国民の理解が得られないということで減税を躊躇する考え方が主流です。英国では付加価値税(VAT)の増減税は首相の判断で出来ます。日本も社会経済の状況に応じて柔軟に対応できるシステム転換を、コロナ後の改革の中で考えていかなくてはなりません。

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