政治家になった実感の一つに、戦没者追悼行事への参加の機会が飛躍的に増えたということがあります。その中で、遭遇する事象に対応すべき気づきの機会が与えられることがあります。2017年に長野県護国神社の北に所在する松本旧陸軍軍人墓地に参拝し、その管理が実は適正に行われていないことを護国神社関係者から伺い、旧軍人墓地の管理の在り方について財務省理財局、厚生労働省社会援護局にその管理の実態、管理責任について問い合わせをした経緯があります。
両省はそれに基づき2018年に全国調査を行い、その結果2019年度予算で対応策が講じられることになりました。少し時間はかかったものの、戦後直後のどさくさの中で埋もれた贖うべき負の遺産ともいうべき戦没者の魂の救済に関わる問題について、政府としても一つの姿勢を示して頂けたものと評価させて頂いています。
戦後直後、旧軍人墓地は、陸軍省、海軍省によりそれぞれ管理されていましたが、敗戦により両省は廃止、軍人墓地の管理規則もGHQにより廃止され、軍人墓地は当時の大蔵省に移管されたものの、大蔵省はそれを地元自治体に譲与するか無償貸与するかのいずれかの方法で自治体に委ねることとなりました。委ねられた自治体の側では、その管理について必ずしも当事者意識を持つということには繋がらず、民間ボランティアに委ねたり、中には全く管理をしていなかったり、松本市のように護国神社に委ねたりと区々の管理が行われてきたとの報告もあります。
平時であればまだ問題は顕在化しませんが、災害時などには大きな問題となります。地震災害や台風災害での墓所の破損に対しては、経費負担を厭い自治体は手を出さない事例が相次ぎ、私の地元の松本市でも2011年の長野県中部地震の際に、墓所に亀裂が走り骨壺が散乱した折には松本市は一切対応せず、見るに見かねた長野県護国神社の神職が散乱した骨壺を片付けた対応を行ったが、墓所の亀裂は放置され、耐震上の観点から問題のある状態が継続してきたという実態がありました。
普段からの松本市の対応も当事者意識の欠如、冷淡の一言に尽きます。夏に行われる松本旧軍人墓地の慰霊祭は、遺族会関係者のみの参列の下に催行され、墓地の管理責任者である松本市関係者の姿は一切見られません。それぞれの地域から出征し戦争で亡くなった兵士は、地元自治体の兵事係吏員から受け取った赤紙によって戦地に赴き国のために命を捧げたのであるにも拘わらず、です。
こういう現状を見直し、御英霊に対する尊崇の念を明らかにし、二度と同じ悲劇を起こさないように御英霊に誓うことの意味を再確認していかなくてはなりません。今回、政府がとり決めたのは、所有者が国、無償貸与先が自治体という形態をとる全国44か所の旧軍人墓地に関して、国と自治体の役割分担を明確にするということにあります。大規模修繕が必要なものについては国の負担で行い、日常的な管理は自治体が責任をもってしっかりと対応するというものです。これを機に墓所がしっかりと修繕され、日常的な管理がより心のこもったものになるように期待したいと願います。
2019年通常国会の予算委員会第三分科会で、このことを政府に確認し、国会の議事録に残る形で記録にとどめることができたことは、地元の課題を解決しそれを全国にも一般化するという国会議員として一つの責任を果たし得たと思っています。
ところで、旧軍人墓地に加え、各地で遺族会が建設している忠魂碑、慰霊碑と言われるものに関してもその管理が行き届かないものが増えていることについても問題意識を持ってきました。私の選挙区の遺族会が、やはり被災し建て替えが必要な忠魂碑について、地元自治体に支援を依頼しても「政教分離」との建前をかざされ、門前払いになっているとの悲鳴が聞こえていました。実は、厚生労働省には、所有者が不明な忠魂碑に関してはそれを移設、埋設するための補助金がありますが、全国でほとんど使われていないという実態でした。自治体がその補助金の存在すら知らないで「政教分離」との建前で遺族会の願いを撥ねつけてきたのです。
この点も厚生労働省に是正方要請し、同省では、全国の遺族会設置の忠魂碑、慰霊碑を調べ、2019年度予算から遺族会が高齢化して忠魂碑維持ができないところも補助金の対象にするとの対応をする方針を明らかにしました。この点も、予算委員会分科会で確認したところであり、自治体の「政教分離」という一言での思考停止はあり得ない旨全国に明らかに出来たものと考えています。
今後とも、魂の問題に於いても、国の政策を講じるべき分野を見極める活動を展開していきたいと考えています。
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