〜地域経済を元気にするために必要な制度とは〜
選挙区内を廻っていると、本当にたくさんの生業があることを肌で知る機会が多い。それぞれの業種が、資金というものを媒介にして結びつきあっていることがよく分かる。特に松本平は製造業、特に自動車産業や精密機器関連の部品メーカーが多く、最近自動車産業の不調により、部品メーカーにも大きな影響を被る実態を聞くことが多くなっている。従業員の整理も始まっている。しかし、大手電機メーカーの事例では、希望退職を募っても現在の雇用不安のご時世で希望者が少ないという実態も聞く。
一方で、企業の資金繰りを支える地方の金融機関はどうなのか。信用不安の中、信用枠の拡大には極めて慎重になっている。金融機関の支店を訪問して話を聞くと、「銀行の内部基準で冒険をすることはできない。民間金融機関の責任の範囲を超えている。」という話が多くなっている。その一方で、信用金庫系の幹部からは、「地場の中小企業が事業をたたんだり、規模を縮小したりしてそもそも貸出先が少なくなってきている」という話も伺う。
国民の貯蓄が1,500兆円ある国にしては、その貯蓄を国内に還流する仕組みが目づまりしているように思えて仕方がない。勢いその貯蓄は国内ではなく海外に投資され、米国の財政赤字を補てんしたり、欧米の地域開発の資金として活用されたりすることになる。しかし、昨今の世界経済の変調で投資が大幅に目減りしたり、円高でさらにそれに追い打ちをかけられたりしている。
日本の膨大な貯蓄が国民生活を豊かにし、国内経済を活性化することに使われていないことに、素朴な疑問を感じる。
過日、ある地方銀行支店の幹部の方の話を伺った。その方は、「銀行のスコアリングシステムが地域経済の疲弊を招いている。地域と付き合う地銀としては、リレーションという考え方が大事だが実際は機能していない。」と自己反省を述べておられた。私はこの言葉が心に残った。企業の業績指標を数値にして示し、貸付の是非の判断材料とするのがスコアリングシステムである。一方で、リレーションシップという考え方は、その企業の経営者の理念、地元での信用、背景などを総合的に考えて貸付の是非を決める方式だ。
その幹部氏は、昨今のビジネススタイルの中でスコアリングシステムが幅をきかし、地道に経営者個人と付き合い目に見えないその経営の有り様を丹念に確かめて判断を行うケースが少なくなっているというのだ。その結果、日本の各地で信用収縮が起き、本来優良な企業までが資金繰りに苦慮するという状況に落ち込んでいるように思えて仕方がない。
日本の各地域に投資されない金は、世界を廻り、投機資金として原油価格を上げたり、穀物市況を上げたりして、世界経済の波乱要因となっている。サブプライムローンに端を発した今回の金融危機も、大量の投機資金が、スコアリングシステムの一連の流れをくむ「格付け機関」の優良格付けに幻惑され米国に過剰に流入したことが発端である。スコアリングが極めて大規模な形で誤って行われたのである。
地域社会の中で足で稼いで個々の企業の信用力を吟味するリレーションシップは、手間のかかる作業である。それができるのは地域に密着した地方金融機関である。その地方金融機関までが、グローバルスタンダードに巻き込まれ、スコアリングシステムの呪縛のなかで呻吟し、地域経済の潤滑油の役割を果たし得なくなっているとしたら残念なことである。
我が国の経済構造を底堅い内需主導のものに転換していくことが現在求められている。それを下支えする金融機能が大事である。この20年近い試行錯誤の中で、地域経済を長い目で見て育て上げる本来の地方金融機関の役割に見合った貸付基準を編み出していくべき時期ではないだろうか。それが健全な地域経済再生の金融技術的側面の大きなチャレンジであるように思えてならない。
Copyright(C) Mutai Shunsuke All Rights Reserved.