10月中旬に2泊3日のフィリピン出張をさせていただきました。フィリピンネグロス島で行われているオイスカ養蚕プロジェクト視察の為、オイスカ永石安明専務理事と伺いました。長野県で培われてきた養蚕技術が彼の地で生かされ農山村再生に貢献している現状を視察したいと考えたからです。初日の夕方、マニラ経由でネグロス島に到着しました。ネグロス島では、早速バゴ市駐在の渡辺重美氏ほかのオイスカ関係者、西ネグロス州知事マラニオン氏、地元国会議員クエバ氏、地元市長の皆様と意見交換しました。州知事からはオイスカの息の長い活動が日本人への信用を高めている旨の嬉しい話を伺いました。その対比で中国に関しては、麻薬の違法持ち込みで地元が大変困っているという話にはいささか驚きました。
翌日はネグロス島オイスカ・バゴ研修センターを訪問し、老朽化した製糸設備を拝見しました。今回の訪問はその設備の更新を政治的に後押しする趣旨もありました。それにしても地元関係者の大歓迎には驚きました。昼前に養蚕に取り組もうという農家組合の幹部が集合し意見交換の機会を頂きました。この地域で1000軒以上の農家が養蚕に取り組む意欲があり、オイスカ養蚕プロジェクトに対する期待感が非常に強いことを実感しました。「とにかく早く養蚕技術の指導を受けたい」との要望が多数出されました。需要に対応できる養蚕指導者が不足している実態も浮かび上がりました。参加者の皆様とはオイスカ心づくしの昼食を供にしました。午後は、山の裾野で養蚕を始めたばかりの農家も訪問しましたが、極めて小規模乍ら、十分なやる気を感じました。農家の奥さんが蚕の管理をしっかりとやっている姿をしっかりと目に焼き付けました。
3日目は、午前中いっぱい、マニラ市内で、オイスカ養蚕プロジェクトに対する支援について、貧困対策の面から副大統領府フランシスコ次官、ジャビニア部長に、農業振興の面から農業省カヤナン次官、コスターレス繊維生産長官に要請を行いました。養蚕振興を通じ、農業農村振興、農村の貧困対策に力を入れる政府の姿勢を感じるとともに、日本に対する期待感も強く感じました。昼過ぎには日本大使公邸に羽田浩二大使を訪ね、オイスカ養蚕プロジェクト視察報告を行い、フィリピン情勢についてレクを受けることができました。
今回の訪問で印象に残ったことは、若い人口が増え続けているフィリピンは潜在的可能性に満ちていること、一方でその成長力を引き出す社会インフラ整備が遅れていること、特に公共交通整備に遅れが目立つこと、農村の経済を活性化させていかないとマニラにばかり若者が集中することになり一極集中の弊害や格差が拡大すること、ドテルテ大統領の犯罪撲滅政策により治安が格段に向上し国民の多くは支持していること、日本のマスコミを通じた大統領の評価と現地での評価には大きな差異があること、日本の評価はオイスカなどの地道な活動によりたいへん高いこと、日本は自らの経済支援の実績に自信をもってフィリピンと付き合えることなどの思いでした。
ところで、今回のオイスカ養蚕プロジェクト訪問は、私にとってはオイスカ議員連盟会員として3度目の海外出張となりました。ミャンマーの農村振興プロジェクト、スリランカの植林プロジェクトに次いでの視察でした。海外出張の機会少ない私にとっては、オイスカプロジェクト視察だけは何故か私の感性に合う思い入れのある出張なのです。今回の出張の背景には、松本市在住の宮澤津多登先生からの強い薦めもありました。実は、日本有数の優れた養蚕技術者である宮澤先生の熱心なご指導によりこの養蚕プロジェクトが軌道に乗りつつあるという実態もあったのです。
オイスカの説明によれば、1980年代の砂糖の国際価格の暴落により砂糖産業に頼ってきたネグロス島は、一時「飢餓の島」と呼ばれるほど困窮した時期があったようです。1989年に西ネグロス州政府より協力要請を受けたオイスカは、特に生活苦を強いられた山間地の農民を対象に養蚕の技術指導と普及に着手しました。砂糖きびのプランテーションで働く賃金労働者から自力農業者への転換を目指したということです。オイスカがバゴ研修センターを拠点に築いてきた長年に亘る活動の実績と信頼を背景に、日本の一流の養蚕農家の元で学んだ研修生や普及員や製糸技術者として活躍しています。
現在中国から一部輸入しているという生糸を、すべてオイスカ生産の生糸にしたいとの要望を踏まえ増産が切望され、日本政府のNGO支援無償資金協力を受け、2006年9月より蚕種製造を開始したのです。これにより、これまで日本からの輸入に頼っていた蚕種を現地で確保できるようになりました。その結果、小規模ながら蚕種製造から織物づくりまでの一連の工程が築かれるまでになりました。この過程で、松本市在住の宮澤先生が大いに貢献されているのです。
その後、養蚕に対する関心と期待は益々大きくなり、特に西ネグロス州内の山間地を中心に養蚕への参加を希望する零細農家が増加傾向にあります。そうした要請に応え、ネグロス島の零細農家の生活改善を実現するためにも、さらなる施設整備を拡充し、良質な繭の生産を増やし、蚕品種の改善や養蚕組合による普及体制を強化することが求められているのです。更には、生糸による撚糸加工技術の導入を図るなど絹織物製品の市場の拡大が求められており、今後、そうした取り組みを通じて、将来早い段階でのシルク産業によるネグロス島内での地場産業化を目指しているというのがオイスカの目標です。
今回の私の訪問は、オイスカ養蚕プロジェクトに対するフィリピン政府のコミットメントを確実にし、併せて日本政府のODAによる支援をバックアップする目的がありました。駆け足の視察でしたが、その目的が達成されることを期待します。私の地元の養蚕関係者の皆様にも今回の視察の結果をしっかりと伝え、松本市とネグロス島の地道な技術交流の支援の役を果たしてきたとお伝えしたいと思っています。
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