9月3日の早朝、高瀬川渓谷にある大町ダム、七倉ダム、高瀬ダムの利水と治水の調整、堆砂の状況、ダムの発電機能向上などの課題について国交省、東京電力の現地事務所スタッフのご協力をいただき現地学習会を行う機会に恵まれました。国交省からは千曲川河川事務所の木村勲所長、万行康文副所長、大町ダム管理事務所姫野芳範所長、東京電力からは伊藤敏彦高瀬川事業所所長らのご同行を得ることができました。
各地に大きな被害をもたらした台風21号到来前の高瀬川渓谷は秋の気配が感じられ、渓谷沿いの道路には猿の群れがわが物顔に堂々と振る舞い、野生鳥獣の繁殖が盛んであることを再認識させられました。
高瀬川渓谷は東京電力の水力発電のメッカです。その最大の課題は、何といっても「堆砂」です。高瀬ダムに流れ込む高瀬川本流、支流の不動沢、濁沢からの土砂は予想を上回るスピードで高瀬ダムを埋めています。不動沢、濁沢の土砂は、花崗岩が風化した真砂土であり、西日本土砂水害で各地の土砂崩れを起こした砂と同じです。堆砂スピードのシミュレーションによれば、10年後には一部の発電機能に支障が生じ、70年後には高瀬ダム全体が砂で埋まってしまうことが見込まれています。土砂の堆積は、豪雨時に特に顕著であることも判明しています。東京電力から高瀬ダム堆砂の経緯を見せて頂きましたが、その増加ぶりを拝見し、まるで我が国の国と地方の累積債務の増え方に似ているとすら感じられるほどでした。現在は、東京電力が建設した工事用道路によりトラックによる頻繁なピストン輸送により土砂が高瀬川下流域に運ばれています。現在はそのトラック輸送の合間を縫うように、タクシーのみの輸送により、限られた数の観光客が高瀬ダムまで送り届けられています。
実は、昭和40年代にダムが建設されるまでは、高瀬渓谷は、北アルプス槍ヶ岳方面の登山口として活況を呈していました。今ではそれが細々とした登山口としてしか位置付けられていないのは大変残念だとつとに感じていました。
この堆砂累積を緩和するために、トラック輸送に代えて、10キロのトンネルを穿ちベルトコンベアーにより堆積土砂を下流に搬出する計画が動き出しています。高瀬川の治水機能を向上させる計画の一環です。もう一つの治水機能強化策は、利水から治水への転換です。高瀬ダムの発電所は複合揚水式発電所であり、下部調整池の七倉ダムとの間で最大128万キロワットという日本有数の発電機能を有していますが、豪雨時にこの調整池の一部を活用し、水を溜め、下流域への水の流出を抑制する利水の治水転換も行おうとしています。そのために、国交省から東京電力には利水の治水転換の容量買い取り費用が支出されることになります。
こうした取り組みが地元にもたらす影響は何かについて考えてみました。とにかく、ベルトコンベアーによる堆砂搬出により、ダムの機能が維持回復することは利水治水の観点から望ましいことです。そして、トラック搬送からベルトコンベアー搬送への転換により、工事用道路が登山客、観光客に便利に解放されることとなると、高瀬川渓谷を使った登山客が飛躍的に増えることが期待され、結果として登山口である大町市の活性化につながることは必定です。雄大な高瀬渓谷の日本有数の水力発電施設を多くの国民に見て頂くことも容易になり、再生可能エネルギーへの理解を深めることにもつながります。
国交省から東京電力に交付される補償金を、東京電力は地元のために使うことも期待されます。例えば、東日本大震災による東京電力福島第一発電所事故以降、高瀬川渓谷、梓川渓谷に所在した水力発電PR施設のテプコ館が休止状態になっていますが、その再開に向けて資金的バックボーンができるのです。
テプコ館再開に向けては、私も別途東京電力に働きかけていますが、再生可能エネルギーの位置づけが非常に重くなっている中で、是非東京電力には大局的に考えて欲しいと思っています。高瀬ダムの堆砂の現状と今後の対策を伺う中で、様々な思いが去来した次第です。
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