「人材の東京流出を食い止め地域再生を」

〜地方分権で人材の地方定着を〜

 松本大学副学長の小倉宗彦氏の話を伺う機会があった。長野県内の高校生で大学進学者の85%が東京をはじめとした県外へ進学するのだそうだ。私自身の実感も同様である。私自身の高校同期もその殆どが県外に進学し、就職しているのが実態である。

 親も教師も、そして本人もできるだけ良い高等教育の機会を得たいというのが本心であり、県内にそのような機会が十分に無いのであればそれもやむを得ないと考えるのが普通である。

 しかし、立場を変えて、地域の視点からこのことを考えるとどうか。優秀な人材がこの地域で高等教育を受ける機会に恵まれない、優秀な人材が働き盛りの時代を出身地域で過ごすことが無い、その結果地域は人材不足に見舞われている、その結果地方に優良事業所が進出しない、といった悪循環に陥っている。

 安曇野市に拠点を置く大手精密機械メーカーの人事担当責任者も、この地域で優秀な人材が確保しにくくなっていると嘆いている。

 恐らく、全国の地方は同様の事態に見舞われているのではないか。

 現在、金融危機の中で日本経済、更には地域経済は大きな混乱状態にある。この中にあって、将来を見据えた地域再生の在り方をじっくりと考えていく必要がある。私は、その鍵は、地域社会に人材を取り戻していくことにあるように思われる。地域で育んだ人材に地域で高等教育を受ける機会を与え、働き盛りの時期を地域社会で過ごし、その結果強い地域経済、地域社会を実現していくことができるような仕組みを構築していかなくてはならない。

 私は、これからの真の日本の再生には地方分権社会の実現が不可欠であると考えているが、その最大の理由は、地域で生まれ育った人材が地域で学び、働き、活躍できるようにするためである。東京にお伺いをたてることなく地域で意思決定でき、地域から直接世界に発信できるような職場が地域に数多く存在すれば、それをめがけて地域で育った優秀な人材が地域に留まることにつながる。そしてその人材を育成するための一流の高等教育機関が地域に存在するようになる。そうなれば、子供たちが肉親と離れ離れになることなく生まれ育った地域で生活ができ、3世代、4世代住居も可能となり、若夫婦の子育ても容易になり、子供の数も増える。結果的に地域経済も、地域社会も安定することになる。

 地方から優秀な人材を東京に送り出す「出稼ぎシステム」は、実は開発途上国型の社会システムなのである。欧米でも特色のある大学研究機関は大都市ではなく地方にある。ケンブリッジ大学もオックスフォード大学も田舎の都市にある。国会、行政機関、大企業、有名大学、大手マスコミ、皇居までが東京に集中している日本の中央集権体制を打破しない限り、真の意味の地域再生はあり得ない。先進国で日本ほどの首都圏集中の国はない。

 これほど東京にすべてのものを集中させておくと、大災害が東京で発生した場合に、日本にとってその被害は計り知れないものとなる。地方分権は国家にとってのリスクヘッジ、危機管理そのものでもある。

 そのような構造改革こそ、真の意味の地域再生のための構造改革である。

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