「せめて松本空港に小型機格納庫整備を」

 日本の観光振興を図る上で、地方空港の位置づけが重要であることは言うまでもない。日本には意外に多くの空港がある。全国で97ある空港の内で地方管理空港はその過半を占め、長野県にも松本空港が存在する。

 しかし地方空港が本来の機能を発揮しているかというと寒々とした現状である。松本空港にしても、現時点で福岡便と札幌便の日に一往復しかない。8月だけ大阪便が復活する見込みであるが、松本空港及びその周辺に整備された広大な敷地を前にすると誠に寂しい実態である。

 地域を元気にするために、空港を使って誘客をする活動も低調である。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まっても、それをきっかけに空港利用を促進する具体の動きはない。2018年には韓国の平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが開催され、冬季オリンピックの先輩開催地である長野に対する彼の地の期待も大きい。開催地近くにある襄陽(ヤンヤン)国際空港と松本空港の結びつきも十分想定可能である。

 一方で、世界を代表する山岳観光地域は、実は世界の山岳愛好家、富裕層の憧れの地域となっている。大都市圏から短時間でアクセスできる壮麗な山岳観光資源の価値は実は地元が思う以上に大きいものがある。成田空港・羽田空港に到着した外国人旅行者が、仮に、東京を経由しないで、成田・羽田から直接松本空港にアクセスできるとしたら、中部山岳地域、その玄関口の地方都市の観光シーンは明らかに一変する。

 特に成田空港は地方空港との発着枠に余裕がある。地方空港とのLCC定期路線、自家用ジェットの活用などの可能性は大である。更に、那覇空港では滑走路を増設することが決まっている。例えば、海を代表する沖縄の空港と山を代表する長野の松本空港が定期路線で結ばれることの意義は大きい。沖縄を訪問した外国人が併せて日本アルプスを訪問するということを想像するだけでワクワクする。全国の地方空港間のネットワークも要検討である。

 過日、松本空港にある民間小型ジェット機運航会社を訪ねたところ、最近首都圏の企業、資産家から、プライベートジェット機を駐機、格納するスペースについての問い合わせが相次いでいるとの話を承った。個人ジェット機で北アルプス山岳地域を往復したいとの希望が多くなっているということは嬉しい情報である。また、私の知り合いでジェット機を保有している安曇野市在住の会社の社長からは、松本空港に格納庫が確保できないので岡山空港に駐機し、自分のジェット機を利用するために岡山空港までわざわざ出向かざるを得ないとの気の毒な実態を伺った。

 空港を管理する長野県当局にそうした要請に対する対応を確認してみると、現状を変えることになると多くの関係者の理解を得なければならず、その手間を考えると現時点で対応は考えていない、との腰の引けた反応が返ってくる。残念ながら、県当局からは、松本空港の利用を促進しようとする強い意志が伝わってこない。

 その背景には、松本空港を設置するに当たって、空港が迷惑施設であるとの前提で地元との調整に多大の労力を要し、現在でもその経緯を引きずっている現状がある。

 しかし、地元の反応も随分と変わってきているように感じる。5月30日に、松本空港の空港対策協議会と県・市の現状の話し合いにオブザーバーとして参加したところ、参加者の一人から、「我々の犠牲の上に出来上がった空港が大して活用されないでいる現状は忍びない」との発言があった。目の鱗が落ちた思いを懐いた。

 「山の日」が新たに国民の祝日になり、これをきっかけに山岳観光振興を抜本的に増進しようとするのであれば、せっかく整備した地方空港を如何に縦横に利活用するかが課題のはずであるし、実は空港周辺の地元もそのことを期待している。

 松本空港が超過密であり、利活用に余裕が無いのであればまだしも、日に数えるしか発着機会のない空港を、官民を含め如何に利活用するかが使命のはずの県当局が、地元に訴えかける努力を控えるような対応には首を傾げざるを得ない。

 空港に勤務する民間企業関係者からは、県の担当者が2年程度で頻繁に代わってしまうので、長期的視点に立った幅の広い観点から専門的に空港振興を考えてくれる人がいないとの諦めの声が漏れている。

 長野県自身が、地域振興の制約要因となっているとの指摘を受けることのないような対応を強く期待したい。勿論、政治の立場から地元地方空港活用振興を全面的にバックアップすることは当然である。


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