「日本は「世界のアンパンマン」に」

 国会議員になって様々な勉強会に出席させて頂いているが、思想、倫理関係の勉強会に参加させて頂く機会も増えている。2013年の年末には立て続けにこうした勉強会の機会を得た。二宮尊徳思想研究会では草山昭報徳博物館館長の話を伺った。草山館長の話では、拝金主義の蔓延る中国でもモラルの重要性が意識され、儒教重視の傾向の中で徐々に報徳思想も普及しつつあるとの話であった。モラロジー研究所の廣池幹堂理事長からは、日本の伝統的価値を重視すべきで、戦後の自虐史観こそが心理的に日本の世界貢献を阻んできているとの認識をお伺いした。

 更に、訪日中のダライ・ラマ法王14世の貴重な特別講演を聞く機会があった。宗教家の法王は、意外なことに倫理教育の重要性、そして若者には民族を超えてお互いの意思を通じ易くする英語教育の重要性を説いておられた。

 一方、日経新聞への寄稿の中で、リー・クワンユー公共政策大学院長キショール・マブマニ氏の文章に接した。マブマニ氏は、インドの伝説的指導者ジャワハルラ−ル・ネルーの言葉を引用し、「日露戦争の勝利でアジアも欧州の植民地支配から必ず脱出できると確信した」、しかし、「アジアの心理的解放に日本がどれほど貢献したかを知る日本人は極めて少ない」、「アジア諸国は日本に礼状を書くべきだ」、「日本の成功がなかったらアジアの大半は、先進国の仲間入りを果たした国がまだ一つもないアフリカ、アラブ、中南米のようになっていたであろう」と、歴史的な日本の世界貢献について述べておられた。過度な自虐史観に染まった戦後の歴史教育を受けた身としては新鮮な外国人学者の指摘であった。

 さて、過日、漫画家のやなせたかし氏が鬼籍にお入りになられた。御存じアンパンマンの作者である。他の多くのヒーローとは異なり、アンパンマンは敵役のバイキンマンを完全にやっつけることはない。そしてアンパンマンは自分の顔をちぎって困っている人に与える。自分を犠牲にして人を助けるという発想でアンパンマンは作られている。

 やなせ氏は自ら中国戦線に従軍した過酷な戦争体験を経て、「正義のための戦争なんてどこにもないのだ。正義はある日突然逆転する。正義は信じがたい。逆転しない正義とは献身と愛だけだ。それも決して大袈裟なことではなく、目の前で餓死しそうな人がいるならば、その人に一片のパンを与えること」だという強い信念の下、アンパンマンを誕生させたとのことである。この一般的には違和感のあるヒーローの存在に、大人たちの戸惑いを吹き飛ばし、世界の子供たちは圧倒的な支持を与えた。

 以上の一見脈絡のない何人かの思いに接する中で、私はこれからの我が国や社会のあるべき方向性が潜んでいるように感じる。ともすると経済至上主義に陥りそうな中で、我々は何が本当に大切にすべきことなのかが世界中で問われていることに気がつかなければならない。日本は、原爆の惨禍に見舞われ、戦後復興の中で世界に黙々とODA貢献を拡大し、大災害時にも整然と助け合う日本のモラルの高さで世界に感動を与え、勤勉で新しい科学技術を次々に生み出し、平和を愛する国民性は広く認められている。そのような日本が果たしてきたモラル上の来歴をしっかりと見据え、実はそのことを世界の多くの人が高い評価を与えているということをしっかりと意識し、それを抑制のきいた自信・強みにして我が国は更なる世界貢献が出来るということではないか。


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