「労務単価を引き上げ、建設業界の人材確保を」

〜4月3日の国土交通委員会での発言要旨〜

 長野県では、長野オリンピックで公共事業が大幅に増えたものの、その後の県政の政権交代より打ちだされた脱ダム宣言で大幅な削減となった。結果として県内経済が落ち込み、県民所得が大幅に落ちた原因とされている。そしてその後の政府の財政構造改革で、更に公共事業が削減された。

 公共事業を支えてきた地元建設業界は、県政や国政の政策のブレで苦境に陥ってきたとの思いが強い。

 そして今回は、国土強靭化による公共事業の積み増しが見込まれているが、事業量が増えればそれに沿って事業実施ができるかというとそう単純ではない。既に事業者の事業執行体制が細っているのが現状だ。

 松本のハローワークの新規求人倍率と有効求人倍率を見ると、直近の常勤の新規求人倍率は1.16なのに対し、建設業のそれは3.15と高い。建設業では求人数85名に対し、求職者27名。完全な売り手市場になっている。有効求人倍率で言うと、全体が0.69倍であるのに対し、建設業のそれは1.66倍。全国の傾向も同様である。

 求人倍率が高いということは、求職者が雇われやすいということになり、それは喜ばしいことかというと、実は違う。建設業界に人が集まらない、人気が無いという証拠でもある。

 私は、実のところ、建設業に人材が集まらない理由の1つに、政府の設定したシステム自体に原因があるのではないかと疑っている。労務単価設定の在り方がその一つではないかと考える。

 「公共工事設計労務単価」という仕組みがある。農林水産省及び国土交通省では、毎年、公共工事に従事する労働者の県別賃金を職種ごとに調査し、その調査結果に基づいて公共工事の積算に用いる「公共工事設計労務単価」を決定、この調査が「公共事業労務費調査」である。公共工事の発注に際し必要となる予定価格の決定にあたっては、「予算決算及び会計令」において、取引の実例価格等を考慮して適正に定めることとされている。 両省では、公共工事の予定価格の積算に必要な設計労務単価を決定するため、所管する公共事業等に従事した建設労働者等に対する賃金の支払い実態を、昭和45年より毎年定期的に調査してきている。

 この「公共工事設計労務単価」という制度自体は、一見妥当なシステムのように思われる。しかし、仕事が少なく、価格競争が激しい中で落札価格が下がっている現状では、事業者は人件費を削らざるを得ない。労務単価は実勢単価調査を元に決定されているので、削った人件費をもとに 単価がまた引き下げられるという負のスパイラルに陥っている。将に、人件費のデフレスパイラルが労務単価算定システムの中に組み込まれてしまっているのが実態である。

 その証拠に、全国の労務単価は、ピーク時に比べ3割も落ちている実態がある。それに対して、国土交通省では、今回、平成25年度の公共工事設計労務単価について単価改善の通知を発出した。様々な工夫を加え、全国平均で15%以上の単価引き上げを果たした。

 しかし、私はこうした毎年の改訂では足りないと考える。この際、設計労務単価については、落札率を乗じてはいけない、との考え方を導入すべきではないかと考える。つまり、この部分は入札時に完全に保障するという考え方を打ち出さなければならない、と主張したい。

 更に言えば、上記の「予算決算及び会計令」において、取引の実例価格等を考慮して適正に定めることとされているが、この政令を当面改正し、人件費のあるべき水準、目標水準を定めるシステムに変更すべきではないか、と考える。デフレ下で賃金が下がり続ける状態を是正するシステムを、デフレ脱却を目指す麻生財務大臣のお膝元のシステムを見直すことにより実現すべきではないか。

 なお、単価設定と、設計、落札後の実際の資材調達にはタイムラグが生じる。震災等による人件費上昇分を反映させるのが難しく、物価スライド制度もあるもののほとんど認められるケースがないという実態もある。既に契約した工事について人件費、資材価格などが上昇した場合に政府としても制度対応をすべきである。

 人件費にお金がかけられないことで、建設事業の現場に良い人材が集まらない。現職の離職者が多く、また若い人材が集まりにくい。現場職人の技術継承にも大きな影響が出ている。大災害時の復旧に大きな力を発揮するマンパワーは、実は建設業界に蓄えられてきた。これが痛めつけられている現状を反転させる必要がある。

 政府の進める国土強靭化は、マンパワーを確保することこそが重要であり、これこそが真の意味で必要なレジリアンシーではないか。政府全体としても小さな制度改正を積み重ねることで、建設業界の人材確保に真剣に取り組む必要がある。


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