「市町村の機関の共同設置という新たな手法」

 全国で平成の大合併の余韻がいまだ冷めやらぬ中で、市町村では新たな広域連携の動きが出ている。市町村そのものを統合する合併ではなく、独立した市町村を前提に市町村間の協力関係を拡大することにより各地域社会の課題に立ち向かう動きである。

 その中で、機関等の共同設置という手法が注目される。2011年の地方自治法改正で機関等の共同設置の対象範囲が、地方自治体の内部組織、行政機関、事務局等にも大きく拡大された。これにより、公選職である首長を除き、地方自治体のほとんどすべての執行機関等が共同設置の対象となった。

 私も、地元の町村長さんと行革の話をする際に、例えば、助役や総務課長を隣の町村と共有してもいいのでは、という話をすることがあるが、制度的にはそのことが可能なのである。

 従来は介護や障害の区分を判断する認定審査会や公平委員会などの中立性や専門性が求められる機関について共同設置が行われてきたが、今後は地方自治法改正を受けて、経済性や効率性の観点から見て効果が大きいものについても、機関等の共同設置についてその得失幅広い検討が行えることになった。

 私がロンドンに駐在していた2008年にアダー市とワーシング市が事務レベルの執行責任者である事務総長を共同設置したことを皮切りに、2012年時点で事務総長を共同設置している地方自治体は34に上っている。

 事務総長とは、英国の自治体の事務方の執行責任者(選挙で選ばれない事務レベルの長)である。英国の地方自治体の形態は、日本と異なり、多くの地方自治体は議会から選出されたリーダーが複数の議員とともに執行部を形成する一種の議院内閣制を採用している。この制度の下では、議員がその団体の意思決定を行い、それを事務総長が実施していくという形態をとる。

 英国では、地方自治体の事務総長は、公募によりその都度採用される職員であり、その組織運営の専門性、資質は高く、それに応じて給料が高いという事情も背景にあり、議院内閣制の下で、その事務総長の共同設置という手法が編み出されてきたのである。

 英国では、現在のキャメロン政権の下で、地方自治体の予算が2015年までの3年で28%ものカットが見込まれており、今後は財政制約の下で更なる事務総長の共同設置という動きに拍車をかけるものと見込まれる。

 我が国においても、公選職である首長を除き、地方自治体の殆ど全ての執行機関等が共同設置の対象となった。そして消費税の引き上げの前提として行政組織の更なる効率的運用が求められている。こうした客観情勢の下で、英国での事務総長の共同設置の事例も参考にしつつ、これから我が国においては機関の共同設置の可能性を探る取り組みがなされるのか注目している。

 我が国の地方自治は、英国とは異なり、選挙で選ばれる首長と議会議員が並立する二元代表制の下にあり、若干前提条件が異なる。しかし、環境が整えば、機関の共同設置は経費削減という意味とともに、複数の自治体に亘り事務の標準化が図られるという観点からも意義深いように思える。

 当面、比較的規模の小さい地方自治体から、実験的に導入してもよいように思われる。


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