「大阪維新の会『維新八策』と『地方交付税の廃止』」

〜農村地域に壊滅的打撃を与える地方財政制度改革〜

 2012年7月5日に大阪維新の会が次期衆議院選挙向けに政策集「維新八策」最終案を公表した。行財政、教育、外交・防衛などの8分野での改革を柱に掲げ、簡明な主張が掲げられている。大変意欲的であり、これまでの政治の在り方を一変させるような内容に満ち溢れており、とても興味深い。

 一方で、長年、旧自治省、総務省、地方自治体にあって地方行財政制度の構築、実務運営に携わってきた立場からすると、この主張には大きな国家的リスクが潜んでいるようにも感じられる。

 最も端的な印象は、この「維新八策」は、目線が大都市偏重であるということである。その典型的事例が、消費税の地方税化と地方交付税制度の廃止の提案である。この組み合わせにどのような問題が潜んでいるのか、現時点での限られた情報の中で私なりに解説を試みる。

 現在の消費税は、国の消費税(4%)と地方消費税(1%相当)からなる。更に国の消費税の一定部分は地方交付税の原資となり、地方消費税分と合わせると、広義の消費税5%の43.6%は既に地方財源である。消費税増税の中で、地方消費税の増税(1%→2.2%)も行われ、また交付税の増収も行われることになっている。その結果、広義の消費税10%の37.2%が地方財源となる予定である。

 既に相当部分が地方財源となっている消費税を全て地方税とするという維新八策の発想自体は、昔からあったものである。偏在の大きな地方の法人課税と国の消費税の税源交換を行うことで我が国の地方自治体間の税源偏在を是正しようという提案については、私自身も、かつて総務省時代に主張したこともある。

 しかし、地方交付税の廃止とのセットは極めて大きな問題を生じる。地方消費税は消費に関する指標で清算され自治体の税収として収入される。消費税を国税から地方税に移管するということは消費税を全て地方消費税に転換するということになるが、その場合、現在の地方消費税の清算の手法が継承されることが想定される。そして、この消費に関する指標で清算される地方消費税には財政調整や財源保障の機能はないのである。

 一方で、地方交付税は財源保障機能がある。財源保障機能とは、その自治体が標準的に必要とする財政需要とその自治体の標準的な税収入の差額を完全に埋めることで、その自治体の財源を保障する機能である。要するに、どの様に税収が少なくとも、その自治体が住民の為に必要とされるスタンダードな行政水準が保障されることになる。その結果、我が国では、都会でも農村地域でも、住民向けの行政サービスに大きな格差が生じることなくその実施が確保されることになる。

 地方交付税のような仕組みがない米国や中国では自治体間の行政水準は、日本においては信じられないような格差が当たり前に生じている。

 日本のどこに住んでいても一定の水準の行政サービスが確保されているのは、実は地方交付税による財源保障機能が存在するからである。多くの国民には当然だと思われている現状の行政水準は、実は地方交付税により担保されているのである。

 「維新八策」は、その仕組みを地方自治体の自立心を阻害すると批判するのであろう。

 仮に、消費税が全面的に地方税化し、地方交付税が廃止されるとどうなるのか。「維新八策」が公表された数日後、私の選挙区に所在する中山間地域を抱える人口3,000人余の麻績村に伺った折に、村役場関係者との会話の中で試算を試みた。

 麻績村の2012年度の一般会計歳入予算規模は22億円。うち地方交付税は12億円。地方消費税交付金は2,700万円である。仮に地方交付税が無くなると、麻績村は歳入の55%近くの12億円を失う。一方で、地方消費税1%で2,700万円の地方消費税交付金は、地方消費税が10%相当になると10倍の2.7億円に増えると推計される。結果として、差し引き12億円―2.7億円=9.3億円の減収となり、42%以上の歳入を失うことになる。

 これでは麻績村だけではなく、大都市以外の全国の地方自治体は財政的に破綻することになる。逆に大都市地域は地方交付税の廃止の影響を上回る消費税収を受け入れることになり、財政力はこれまで以上に強まる。恐らく、全国の自治体では、第2の平成の大合併を余儀なくされることになるだろう。

 論点は、そういう結果をもたらす制度改正をこれからの日本の国づくりの方向性として受け入れて行っていいのかということである。

 私は、冒頭指摘したように、「維新八策」の視点は、大都市目線であるということを指摘したい。その意味では、私は少なくともこの点について、全国の地方自治体関係者や農村社会を大切に思う関係者は、「維新八策」の毒を吟味し、その危険性を広く世間に訴えていく姿勢が必要だと申し上げたい。


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