「“国の方がよくできる”といった結末は?」

〜国民年金未納率の高まりの背景にある中央集権の発想〜

 国民年金の不払いに歯止めがかからない状況が大きな問題になっている。2011年度の未納率が40%を超えたと報道されている。その背景には、非正規社員の増加、若者の間に制度の持続性への疑念が強まっているなど理由が挙げられることが多い。不信感が未納を呼び、それが更に不信感を高める不信のスパイラルに陥っているとも言える。

 しかし、国民年金の不払いを加速したのは、実は、政府による制度改正の見誤りにあったという歴史的事実を忘れてはならない。

 国民年金の徴収はかつて地方自治体が行っていた。地方分権一括法を制定する際に徴収を地方に残すか国にもっていくかの議論になった際に、当時の厚生省は地方分権推進委員会に資料を提出し、徴収事務を「国の直接執行事務」とすることを主張した。「年金をはじめとする社会保険事業は、・・・質量とも業務量が急激に増大しており、その正確、迅速な処理を期するためには、今後とも専門知識を有する職員による一元的な事務処理体制」が必要だというのがその理由だ。そして、この事務を「国の直接執行事務」ではなく、「法定受託事務」とした場合、「国の指揮監督及び人事管理のいずれもできなくなり、保険者としての経営責任を全うすることが出来ず、事務処理の効率性も低下」することとなり、更に、地方自治体には「経営責任がないので、十分な経営努力を期待し得ず、保険料徴収率の低下、となり財政悪化をもたらすおそれがある」、とまで言い切った。

 結果として制度所管の厚生省の主張が通り、保険料を集める主体は市町村から社会保険庁(現在の日本年金機構)に移された。

 市町村が徴収を担当していた時代は、地区の自治会や町内会・区長会を通じて集めるなど取りこぼしをしない創意工夫が生きていた。しかし当時の厚生省はこの工夫の仕組みを軽視した。

 徴収事務を市町村から国に移管した結果、厚生省の主張とは真逆の結果になり、徴収率は一挙に低下した。市町村は、地べたをはうように徴収していたのに、国の事務になれば、国民の義務だからと言って通知表を渡し、ここに振り込んでくださいと言えばみんなが振り込むと思っていたようである。机上の理屈で見通しが甘かったと言わざるを得ない。

 徴収事務が国に移管されたことについて、当時から市町村長は徴収率の低下を懸念していた。それが現実の問題となった。年金の未払いが問題になり、社会保険事務所から協力を求められた町長の中には、「市町村に任せていては徴収できないから自分たちでやると言って持っていった事務じゃないか。それをどの面下げて協力してくれと言いに来られるのか」と断った人がいる。

 政権交代前に今の民主党は社会保険庁が引き起こした「消えた年金記録」の追求に奔走し、政権交代により年金記録問題の後始末に自ら携わることとなった。しかし、その中で肝心の未納対策はなおざりにされ続けている。

 自ら主張した制度改正の結果、未納率を高め、その後もその対策を講じられない政府の機能不全の裏に、地方自治の現場の創意工夫を軽視した中央集権的発想があることを忘れてはならない。


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