〜デリバラティブ・ポールによる熟度の高い民意形成の意味〜
正月明けの私が教えている大学の講義で討論型世論調査(デリバラティブ・ポール)を試してみた。題材は、「外国人地方参政権の可否」についてであった。
講義の前に学生に挙手によるアンケートを行ったところ、参政権付与に賛成は42%、反対は33%、「分からない」が24%であった。
講義の中で、憲法解釈(禁止説、要請説、容認説)、平成7年の最高裁判決、国民の権利と義務、領土問題・安全保障環境をめぐる近隣諸国の情勢、地方分権の進展と国と地方の関係の変遷、一般永住者と特別永住者の数の推移、戦前戦後の日韓関係、諸外国の外国人参政権付与の現状(特にEU諸国の実際)などについて論点を解説した。その上で講義後に再度アンケートを行った。その結果は、参政権付与に賛成が大幅に減り15%、反対が大幅に増え65%、「分からない」は微減の20%という結果になった。
様々な観点の議論を経ない状態では、外国人地方参政権付与も、「外国人も税金を払っているのだから地方参政権くらいは認めることもいいのではないか」、という判断が常識的、一般的だが、制度の在り方を根本に遡り考えると別段の意識が生まれるということだ。これが討論型世論調査の意味である。
外国人地方参政権のように国民の間で賛否が分かれる議論は沢山ある。原発に頼るエネルギーの在り方、消費税引き上げ、社会保障の見直しなどの問題に関し、しっかりしたデータや根拠に基づく説明、討論、検討を経て考え方を醸成する仕組みが今こそ必要とされる時はない。
マスコミは真に頻繁に世論調査を行うが、その世論調査の対象の国民の側は、こうしたデリバティブ・ポールを行う環境下にはない。漠然とした社会的雰囲気やテレビ・新聞の報道ぶりの中で、曖昧情報をベースに自らの損得を考え、個々人の感情が先行する判断が行われがちである。
米国の人口学者、サムエル・プレストン氏が唱えたプレストン効果という概念がある。高齢化社会の中で多数の高齢者が少数の若い世代の犠牲の上に既得権を最大化する傾向が生じる、という仮説である。黙っていると、そうした社会的環境の中で世論が形成されがちである。例えばこうした社会環境の中でも、徹底した討論により形成された理性により少数者の利益を合理的に守る政策選択の道を開く手法が必要とされる。
ともするとバイアスがかかりがちな世論の方向性を正す手法の一つとして、デリバラティブ・ポールがあると思う。民主主義を流動化させず、成熟させる仕組みが、この手法に限らず必要とされている。兎に角、縦横斜め上下から大きな課題を議論し物事の本質を突き詰めて考える制度を作って行けば、民主主義の結果が大きく異なってくることがあると信じたい。
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