「リニア中央新幹線と南海トラフの新たな想定震源域」

〜南アルプスを刳り抜くルートの見直しを〜

 JR東海が事業主体であるリニア中央新幹線については、南アルプスルートで工事を進める準備が進行している。環境影響評価も行われ、事業は着々と進んでいくかのように思われる。しかしここに来て、無視できない大きな問題が生じてきた。

 政府の中央防災会議は、南海トラフを震源とする巨大地震のモデルを検討しており、新たな想定震源域がリニア中央新幹線の南アルプスルートが重なり合う可能性が濃厚になっている。(注)

 リニア中央新幹線は、日本を代表する国家的プロジェクトたる巨大システムである。特に超伝導のリニア技術は最先端技術を高速鉄道に活用する世界注目のシステムである。これを安全・確実に実用化することはJR東海だけではなく政府の念願であり当然の責務である。また、地元自治体としては、それを指摘することは当然の義務である。

 東日本大震災の教訓の一つに、巨大システムについては、起こり得る最大限の自然災害のとその規模を想定してその災害脆弱性を最大限に緩和しなくてはならない、という「減災」の思想がある。起きる可能性のあることはいつかは必ず起きることを前提としなければならない。

 マグニチュード9クラスの地震が予想される震源域に重なる南アルプスの胴体に長大トンネルを刳り抜きリニア新幹線を作ることが本当に適切な判断であるものか、私は大きな疑問を持たざるをえない。本来ならば、震源域を迂回し、巨大地震の影響を出来る限り減殺できるルート選択をしなければならない。

 JR東海は、技術進歩の結果として南アルプスを貫通するルート選択が可能となったとし、それが経済効率性にも資すると主張しているが、その経済効率性は、新たな震源域拡大という事実の前に、巨大システムに求められる安全性のレベルと両立するものであるか、私は疑問を持たざるを得ない。そこには、経済効率性を優先し、安全対策に金を惜しんだ福島第一原発の運営者である東京電力と通じる発想がないか、もう一度問いたい。

 元々のリニア中央新幹線のルートは、南アルプスを迂回し、諏訪を経由して中京に抜けるBルートであった。結果としてそれは、今回の想定震源域を大きく避ける案でもあった。

 東海道新幹線が東海・東南海・南海地震で長期に亘って不通になることが見込まれる中で、そのバイパスとしてJR東海はリニア中央新幹線を急いでいるとも考えられる。

 そのバイパス整備を行うに当たり、わざわざ拡大された想定震源域の中、或いはその境目に、難工事が見込まれる長大トンネルを整備することは、勇気ある挑戦ではあるが、危機回避の理念から見て、誤った考え方のように思われる。東日本大震災後の教訓を前に、最早、想定外という言葉で言い逃れはできないのである。

 JR東海、政府の柔軟な対応を望みたい。また、長野県当局には、危機管理の発想で適切な指摘を望みたい。

(注)
1,南海トラフの巨大地震の新たな想定震源域の具体の地図は以下のリンク先の3ページ目の地図参照
 http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/chukan_point.pdf

2,リニア中央新幹線の南アルプスルート」は、以下のURLのそれぞれ4ページ目参照
長野県
静岡県 
山梨県

1,と2,の両者の地図を重ねると、ちょうど「入るかどうかの境界あたり」であるこが分かる。


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