〜有権者に課題を問いかける立ち向かう姿勢〜
大阪府と大阪市の首長選挙が終わった。橋下徹代表率いる「大阪維新の会」のエネルギーが大放出された結果、大阪市、大阪府とも「維新の会」のメンバーである市町候補、知事候補が地滑り的勝利を収めた。民意が示されたとして、橋下代表が掲げる「大阪都」構想は、突如野田政権の政策課題として浮上した。地方制度調査会も、行政学の大御所西尾勝会長の下で、この課題を審議することになるとの報道がなされている。
それでは果たして今回の大阪選挙で問われたのは、「大阪都構想の是非」であったのか。大阪府民は大阪都構想に賛意を表したのであろうか。
私は必ずしもそうではないと思う。今国政の停滞感は酷いほどである。東日本大震災の復興のスピードは遅い、原発事故の終息は遠い先の話、普天間基地の移転問題はますます混迷の度を深める、税と社会保障の議論は進まない、消費税の引き上げの行方は不透明、TPP参加の可否も玉虫色、マニフェストの虚構の約束は店晒し、国会議員の定数是正は進まない、区割りの見直しも進まない、公務員制度改革も進まない、政治主導は空回りのまま、などなど現政権が抱える懸案が何一つとして実現する気配はない。
そのような中で、強いリーダーシップを持つカリスマ性の強い政治家を求める大衆の気持が蔓延している世情がそこにはある。橋本徹代表にとって、ある意味で争点は何でもよかったのではないか。前平松大阪市長の嫌がる争点であれば、府民の閉塞感を払しょくできるテーマであれば、何でもよかったのではないか、と思う。
ある一つの争点を選び、それを対立軸に仕立て上げ、実現困難な課題に挑むリーダーシップを有権者に印象付ける、という手法がそこにある。有権者は、知事の職を辞してまで市長選に挑む橋下氏のある意味の「潔さ」、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という「背水の陣の姿勢」に心を打たれたのではないか。その結果、「維新の会」は地滑り的な勝利を果たした。
我々は同じ光景を何度か見てきた。最近では、小泉総理により「郵政選挙」、前回の「政権交代選挙」もその事例である。その末路がどのようになったのかを有権者は十分に知っている。しかし、それでも尚、有権者は新たな刺激を求め、夢を見たいのである。
大きくぶれる民主主義の在り方に危うさを感じる向きも多い。しかし、私は、橋下徹氏の政治姿勢に現政権はもとより政治家が学ぶべき点があると思う。それは、政治家というものは有権者を恐れ媚びるのではなく、有権者に立ち向かい説得する姿勢である。一見荒唐無稽とも言える大阪都構想を橋下氏なりに訴え有権者を説得しようとしたその姿勢である。
政府・与党は、慌てて大阪都構想の可能性の検討を行うよりも優先してやるべきことは、現下の喫緊の課題に関し橋下氏の政治の潔さに学ぶ選択を行うべきといことではないか。具体的には、消費税法案を次期通常国会に提出する前後に、国民の信を問う解散総選挙に打って出るべきだということである。野田総理は、法案が国会で成立して実施までの間に選挙を行う意向を示している。しかしそれでは国民に対する事後報告である。国民の意思を警戒し、怯えた政治的選択である。本当の意味で消費税の引き上げが必要だということであれば、堂々と消費税の引き上げを争点に国民の信を問う選挙を打つのが、前回の衆議院選挙のマニフェストで消費税引き上げに口を閉ざして政権を奪取した与党の最低限の矜持ではないか。
腰の引けた野田総理に、今回の大阪選挙の教訓がどのように理解されるのか今後の展開を見たい。
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