「地震と地縁団体の対応」

〜地域の人間関係が地域防災力そのもの〜

 2011年6月30日に松本市南部地域を震度5強の地震が見舞った。これまで松本市でこの規模の地震を経験した人は、現在の生存者ではない。そのために松本市民は大変驚いた。

 この規模の地震の折に、地元の地縁団体である町内会がどのように機能したのか、興味深いところである。そこで、震源域付近の笹部町会長の牛山晋一氏からその対応を伺った。

 松本市は、町内会活動が活発なところとして全国に名高い。町内会長のステータスも高く、市議会議員は町内会長に頭が上がらないとさえ言われている。そしてそのステータスの高さは、日々の活動に実績により裏付けられている。

 Ustream対談(注)で伺った牛山長会長の普段の活動は、スクーターを駆使して、600戸で構成されている町会内の市民の皆さんに普段から資料の配り物など町会役員で手分けをして行っているという機動的なものである。

 震度5強の今回の地震に際しても、その普段からの地元への目配りが生きた。牛山会長は被災後、ご自身の自宅の状況を確かめてから直ぐ町会の被災状況をスクーターを駆使して巡視。その上で、町会役員がその役員を併任している自主防災会を招集し、対応策を議論した。

 建物の損壊、家の内部の損壊などの被害は広範囲に発生したものの地元で建物の倒壊などはなく人命救助の必要は生じなかったが、役員会では、今後の地震に備え、地震の翌日に町会構成員に緊急アンケートを行うことに決めた。個々の家庭の被害状況、地震発生時に取った行動、今回の地震で感じたことが主な項目だ。そうしたところ、何と、3日後の7月4日までに、回収率91.5%という驚異的な率でのアンケート回収が出来た。

 そのアンケートによると、今回の地震の教訓として、1,近所の人と一緒に行動が出来て安心した、2,地震が他人事ではないと感じた、3,非常持ち出し品の準備が必要だと感じた、4,家具などの転倒防止に必要性を感じた、5,家族の安否確認方法、避難場所などの事前の確認が必要だと感じた、6,「向こう三軒両隣」の連携と協調が重要だ、7,情報提供の手段としての放送設備の必要性を感じた、といったものが上位を占めたとのことである。

 牛山長会長によると、普段の町会の活動が、全て防災につながる要素を持っているとのことであった。地区の祭り、運動会などはその典型である。松本には「三九郎」という子供の祭りがある。笹部地区は、その「三九郎」の為に子供たちが奈良井川から木を切り出し、それを支柱に正月飾りを燃やす。そしてそれをバケツリレーで消すところまでやる。バケツリレーは子供の防災訓練にもなっている。そして子供たちを見守るために地元の小学校PTAの協力を得る。そうした活動をきっかけにPTA役員の町会活動への協力にもつながり、結果として若い世代の町会活動への参加も実現している、との町会活動活性化の秘訣の披露もあった。

 牛山長会長の長年の町会活動の経験に基づく一言が心の琴線に触れた。「地域の人間関係が地域防災力そのものだ」という至言である。

 ソシアル・キャピタル(社会関係資本)という言葉がある。地域の絆の大きさの多寡を表す言葉である。経済成長の過程で家族や地域が流動化しバラバラになっていくことを懸念し、ソシアルキャピタルを充実させ、家庭や地域社会の復権を促す努力を政策の重要課題に掲げようという政策目標のキーワードになりつつある言葉である。

 今回の松本の地震対応で、図らずもこのソシアルキャピタルの充実度が試されることになった。アンケート回収率の驚異的な高さは笹部町会のまとまり、ソシアルキャピタルの充実度を示すものである。まさかの時に備えた、普段の地道な地域活動の意義を再確認できた牛山長会長との対談であった。

(注)牛山長会長とのusream対談の模様は以下のリンクご参照
http://www.ustream.tv/recorded/16926988


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