「「横浜みどり税」に学ぶべき復興財源議論」

 都内で「横浜みどり税」について横浜市税制課長の鈴木栄氏から話を伺う機会があった。横浜市では毎年100haの山林・農地が失われ、緑の保全・回復が大きな課題となっていた。問題はそのための施策に要する財源を如何に確保するかということであった。

 横浜市の緑の多くは民有地に依存し、緑減少の大きな要因は、緑地の日々の維持管理や相続税の負担が大きいという現状の中で、横浜市では「横浜みどりアップ計画」を策定し、樹林地を守るための買い取り制度などを導入する一方、その財源についても検討を進め、市民税均等割の超過課税により広く市民がその財源を拠出する制度を導入した。

 制度創設に至る過程で研究会を設置し、市民アンケートを実施し、理論的な検討をじっくり行った。できあがった仕組みは5年間の時限措置の制度である。税収規模は24億円でその税収は基金に積み立て特別会計を通じて「横浜みどりアップ計画」に掲げられた事業に充てるというものだ。

 同時に、横浜市では、固定資産税の軽減措置を講じた緑の保全創造を実施している。一定の緑化基準を超えて緑化を行っている土地については、上乗せ緑化部分の税額の1/4を軽減するというものである。

 横浜市では、独自の行政課題に応えるために独自税制により対応を図っている。財源が不足するから超過課税を行うのではなく、独自の施策を実施するために超過課税を行うというという理屈であり、税の使途明確化の為に基金を設置し、施策効果検証に市民参加組織を設置している。今後は、「みどり税」の検証を進め、そのための専門部会を作る予定もあるとのことである。

 「横浜みどり税」を眺めると、税のコンセプトが明確でその実現に至る手続きとその後のフォローが精緻であることが分かる。行政手続きの模範とも言える。しかし、横浜市には独自税制に関しては痛い過去がある。10年前に「勝馬投票券発売税」を制定したが国が不同意とし、結局その税は実施されることなく廃止された。その辛い経験を踏まえ、「法定外税は市の固有施策を根拠に活用されるべき」との立場で、今回の「みどり税」は精緻な手続きを経て実現に至った(「みどり税」は法定外税ではなく超過課税である)。

 翻って、横浜市の様な超過課税を活用した独自制度を持っている自治体は、森林保全のための仕組みを作った長野県、コミュニティ施策の財源とする宮崎市などがある。それぞれに地域の特色が豊富な価値ある事業が展開されている。

 実はこの仕組みは、東日本大震災の復旧・復興に向けての政府の財源調達の考え方にも通じるものがある。時限措置により所得税、法人税に附加税を課すというものが政府の原案であった。誰もが被災地に寄せる思いがあり、その思いを受け、国が通常の税率により計算された税額に附加税を課すというものであり、これは地方の制度で言えば超過課税と同義である。

 しかし、国の復興財源確保については、与党の内部に反対意見が強いと報道されていた。そして政府の方針とりまとめの最終段階で具体的増税措置の記述が削除された。

 地方自治体ではスムースに行く施策が、国ではなぜ順調に進まないのか。地方自治体では政策を政局で考える要素は相対的に少ない。しかし、国(国会)では政策が政局と絡めて議論されがちである。震災復興というこれ以上ない大義名分も政局の中で翻弄されることは悲しいことである。せめて震災の復旧・復興に際しては、与野党はお互いにメンツを捨て、この時点で国として行うべきことは何かという観点で考えなくてはならない。政府は横浜市の「みどり税」の制度の創設と運用に学ぶべきところは多い。


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