「消費税と社会保障・地方自治」

〜忘れられがちな論点:地方財源としての消費税〜

 社会保障制度の構築と伴に消費税の引き上げを巡る論点が国政の大きな争点に浮上している。消費税を国民の老後の不安を和らげる社会保障施策に充てる為に引き上げるのであれば、その引き上げについて国民の皆さまの理解を得られやすいとの考え方によるものである。

 民主党は2009年のマニフェストの中で、消費税について、「その税収を決して財政赤字の穴埋めには使わない」、「社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確に」、「現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当」、「将来的には、『最低保障年金』や『医療費』など、最低限のセーフティネットを確実に提供するための財源」とする旨謳っていたが、財政の窮状を見るにつけ、ここにきて消費税の税率維持は断念、その税収を社会保障財源に充てることを前提に引き上げ議論を行う姿勢を明確にしている。

 消費税を社会保障の観点から眺めることは国民の理解を得られやすい。しかし見過ごされやすい論点として、国と地方という観点から消費税の問題を見る視点がある。国民に直接の受益となる社会保障と、そのサービスが地方自治体を通じて行われるものもある、という視点の次元の違いである。

 民主党のマニフェストに従い、現行5%の消費税の全額を年金財源に回すことは、実は地方自治体にとって深刻な事態をもたらすことになる。何故ならば、5%の税率の消費税とは、実は(国)消費税4%と地方消費税1%相当(消費税額の25%が地方消費税率)を併せたものである。また、4%の(国)消費税の29.5%は地方交付税の原資となっている。したがって地方消費税と地方交付税の原資となっている消費税分を加えると、全体の消費税の43.6%(消費税率換算では5%のうち2.18%分)が現在の地方の「取り分」となっている。

 民主党のマニフェストに従って社会保障と消費税の議論が展開されると、現在地方自治体が確保している消費税収が無くなるのみならず、将来の消費税引き上げに伴う税収が地方自治体の収入にならなくなる可能性がある。

 このことを裏付ける発言が、先だっての衆院予算委の中で与謝野経財大臣からなされた。与謝野氏は、「今のところ地方にという考え方は誰も言わない」と答弁し、少なくとも増収分を地方へ回すことに否定的な考えを示した。一方で、片山総務大臣は、「社会保障制度の検討を行った段階で地方の役割はそれなりに整理されるので、どれほどの財源が必要なのかはおのずと出てくる」と遠慮深い言い廻しを行った。この与謝野発言が報じられるや、地方側は危機感を募らせ、2月26日には臨時の全国知事会議が開催された。

 社会保障サービスの現状について、政府は国と地方の負担の比較をしている。それによると、年金を除く医療、介護、子育て等のサービス給付のほとんどは地方自治体が担っており、地方の役割も相当程度大きいという数字がある。平成22年度で国庫負担27.6兆円に対し、地方負担16.8兆円である。そして毎年の社会保障費の自然増は国費が約1兆円、地方費が約0.7兆円と見込まれている。

 民主党のマニフェストに従うと、消費税は地方消費税も含め全てが国の収入になってしまう。また、消費税を完全な社会保障目的税とすれば、地方の一般財源である交付税の財源にはできなくなる。交付税分は目的税の例外扱いにするか、消費税を交付税の原資から切り離し地方消費税に統合するかといった選択を迫られることになる。更に、消費税引き上げ分は全て国の社会保障負担に充て込むことになると地方は干上がってしまう。

 これが「地域主権」を標榜する現政権の政策として果たして考え抜いた末の政策なのか、大いに注視しなくてはならない。消費税の引き上げ議論を行う場合には、社会保障財源の確保という側面に加え、社会保障を支える地方自治体の財源確保という側面が頑として存在することをしっかりと見据えて行かねばならない。


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