「大学機能の地方分散と地域再生」

 ゼミの学生と地域格差とその是正策の議論を行った。全国の若者が都会に集中する国の姿については、多くの学生が疑問を持っている。青森県出身の女子学生は、「親が都会に出てみろと言ってくれた。来てみると電車の本数は多いし便利だし輝きが違う」という印象を語っていた。一方で高知県、群馬県出身の女子学生は、本当は地元の国・公立大学に進学したかったがハードルが高く私学に進学したと正直に話をしてくれた。

 都会に出たい学生と、地元に進学先がなくてやむなく都会に出た学生。いずれにしてもその生活を支える親の負担は大変である。

 都市と農村の地域格差を是正する手法として地方交付税制度という財政調整・財源保障制度があり、ゼミではその仕組みの基本を皆で学習したが、しかし都市と農村の格差は、財政格差を地方交付税で調整するだけでは到底埋まるものではない。

 ゼミの別の女子学生が、地域格差是正の手法として、大学の地方移転を促し、若い人たちが地方で勉学する環境を整えることが有効ではないか、と発言した。まったくそのとおりである。学生がこぞって大都会に集まる先進国は日本くらいではないか。欧米の先進諸国は地方都市に特色ある大学が散在する。なぜ日本でそれが出来ないのか。

 放置すると都会に集中する学生を当て込んで大学が都会に集中する。大学が都会に集中するから学生が都会に集中する。相乗効果が生じている。それを是正するためには、政府が大胆な政策誘導を行う必要がある。都会に所在する私立大学の負担を大きくし、その分地方に所在する大学の運営を支援するといった財政的な誘導の手段もあろうし、都会の大学のサテライト施設を地方に設置し、その地域出身の学生は親元から通いながらそのサテライト施設で勉強する。そして数カ月に一度、まとまった期間、本部の大学でスクーリングを受けるといった大学運営の多元化の手法もあろう。

 ICTの進歩により、インターネットを通じた学習支援の仕組みも十分可能になっている。地方に所在する既存大学の施設或いは講座を、クラウド・コンピューティングではないが共有するという手法も十分ありうる。各大学が全ての機能を独自に提供していくことは負担も大きい。

 若者を地域社会に留めるために、大学の持つ機能をどのように活用しうるのか、そろそろまじめに考えてもよい時期かもしれない。

 もちろん、世界に飛躍する人材はどんどん世界に飛躍してほしい。しかし、大学進学率がここまで高まり、長野県のように大学進学とともに85%もの高校卒業生が県外に流出するというのはいささか異常である。現下の経済情勢の下でただでさ収入が減っている親にとって都会に出て行った子弟の生活費の仕送りは苛酷であり、都会に仕送る教育費の負担が重荷となり地域経済で循環すべき資金が更に枯渇していく。

 わがゼミの女子学生の提言による大学(機能)の地方分散は、有効な地域格差是正策になり得る。

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