来春の大卒の就職内定率が57%に過ぎないとの報道がなされている。まったくもって残念な事態である。菅総理が「雇用、雇用、雇用」と絶叫した意図とは全く異なる深刻な事態が進行している。
一方で、政府の天下り禁止の方針の下、公務員への学卒者の採用を半減する方針が閣議決定されている。企業に若者の雇用を呼びかける政府が、自らは若者の雇用を半減させる採用方針を閣議決定するのであるから、企業は政府による雇用の呼び掛けに応ずるつもりなどは全くなく、企業の都合で採用の水準を決めていくのは当たり前である。そして、それぞれの組織の生き残り原理の積み重ねが、「合成の誤謬」として社会的に大きな矛盾を引き起こす。
政府が、「天下り問題」の解決のために若者の雇用を犠牲にする選択肢を取ったことは全く理解できず、それを是正すべきことはもちろんであるが、公務員バッシングにより政権を取った立場上、容易にその政策を撤回できないのであろう。無理な公約の付けにより若者が犠牲になっているのは若者が気の毒としか言いようがない。しかも、昨年の「政権交代選挙」では若者自身が政権交代に票を投じたのであり、何という悲劇と形容すべきなのか言葉を失う。
私は、教え子の大学生に、「昔だったら、政府の雇用抑制政策に反発し、学生は国会をデモ行進で包囲するくらいの意気込みがあった。君たちもそれくらいの気概がないといけない」と発破をかけた。そして大学当局には、「政府の採用抑制方針に対して、天下り禁止の付けを学生にしわ寄せしないよう、政府に申し入れを行うべきだ」と申し上げた。
しかし、その両者とも実現する様子はない。学生は採用抑制の中、自らは採用枠に収まるように塾の公務員講座に通い、大学当局は当局に睨まれる対応は控える姿勢にあるように思われる。学生も大学もまるで去勢されたようである。実際には人為的に誰かが作っている「世の中の動き」に対して、抗うことのないまるで物分かりの良い世の中になってしまった。
そのような認識をもって松本市内の事業所を巡っていて、ある中小企業の社長の話を伺う機会があった。この社長は、このような時期だからこそ若者は故郷に戻り自己創業すべきだと語っておられた。「会社に入社する場合には、会社が望む人材像に自らをあてはめる必要がある。ある意味で自己抑制をすることになる。それでも良いが、逆に企業に採用されないということは、自らの創意工夫を自分自身で生かすチャンスが与えられたと考えるべきである。そしてその場合、都会で高い家賃を支払い厳しい生活を余儀なくされるのであれば、故郷に戻って親と同居し固定費用を大幅に削減し、自己創業を考えた方がよい。子供が近くにいるということは親にとっても本当の意味での幸せだ。政府はその若者の自己創業を支える資金提供のインフラを考えるべきだ。」と熱っぽく語っておられた。
日本という国は急速に豊かになり、親は自らの苦労を振り返り、子供たちには親が経験してきた苦労をかけたくない、との意識の下、子供たちを大事にし、甘やかしてきたように思う。その結果、今の若者に、自ら危機を切り抜け自立する姿勢が不足しているように思われる。
「若い頃の苦労は買ってでもせよ」との言葉がある。若者は厳しい就職戦線の中での勝ち負けに一喜一憂することなく、今の試練を自らを磨く機会と捉える意識も持って欲しい。そして政府は、雇用確保を企業のみに託すのではなく、自己創業する気概を持つ若者に創業資金を提供・拡充する制度を検討すべきである。
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