「EU内の領域的協力制度:EGTC」

 欧州ではEUという仕組みができて様々な取り組みが行われつつある。私は、昨年来、ロンドンを拠点に、EUにおける我が国の地方自治体にも参考になりそうな仕組みを調べたが、EU内の「国境を超えた事業」に関しての新たな共同体の仕組みも参考になりそうな仕組みの一つである。

 EGTC(European Grouping of Territorial Cooperation)という制度がそれだ。EUでは、EU内の国境を超えた領域的な協力に対する様々な障碍を解消するために、異なる国の地方公共団体同士が法人格を付与された協力団体を創設するための地方・地域レベルでの協力制度を作っている。2006年7月に「欧州における領域的協力団体(EGTC)に関する欧州議会・欧州理事会規則」により、領域的協力共同体に法的枠組みを提供する最初のEUの制度として制定された。

 EGTC制度の内容を簡単に言えば、国境を超えた事業を実施しやすくするために法人格を有する団体を作ることができる制度で、大枠として次のような内容が定められている。

・ EGTCは法人格を与えられる。
・ 独自に財産を取得したり処分したりすることができ、雇用や訴訟への参加もできる。
・ EGTCは、EU規則と事務所が置かれた国の法律以外はそのEGTCの協約・規約にのみ従う。
・ EGTCがなしうるのは、領域的協力プログラムの実施、EU構造基金(欧州地域開発基金、欧州開発基金、結束基金)を通じて共同体が共同出資するプロジェクトに限られる。

 このような制度を作るに至った背景としては、EUの拡大に伴い地域が国境を越えた協力をしようとする場合が多く生ずるが、EU各国はそれぞれに制度が異なるため、法律的、管理組織上、資金的な面で数多くの問題があり、効果的な制度がない中で一部の国では国境をまたがるこれらの活動を妨げる場合もあった。そこで、EUレベルでの領域にまたがる制度の創設が求められていたということだ。

 この新しい制度の目的は、「経済的・社会的結束の強化という高次の目的」にしたがって、主に地域あるいは地方自治体同士による、「国境横断的、国際的又は地域間の協力を容易にし、かつ促進する」とされているが、規則の序文では「様々に異なる国家の法律と手続きの枠組みの中で活動する」ことで生じる障碍を軽減すること、既存の制度の不十分さに対する解決策を提供することなどが書かれている。

 さて、このEGTCを設立するに当たっては、構成員が資格を有し、組織としてまとまり、適法な手続きを踏むことが必要となる。構成員の資格としては、EUのメンバー国、地域(リージョナル)レベルの広域地方自治体、地方(ローカル)レベルの地方自治体、公法上の法人が挙げられる。この公法上の法人について、EU地域委員会(Committee of the Regions)が、該当する法人の一覧を挙げている。

 そして、2つ以上の加盟国の領域上に位置する構成員で占められることが必要とされている。そして、加盟国以外の構成員の参加についても参加の余地が残されている。

 EGTCの業務活動の基本となるのが協約(Convention)と規約(Statute)であり、いずれも全員一致で決める必要があるとされている。協約には、名称及び事務所、業務の及ぶ地域の範囲、具体的な目的と業務、存続期間と解散条項、構成員のリスト、協約の解釈と施行に適用される法律、資金管理、相互承認のための適切な取り決め、などを明記することが義務付けられている。

 EGTCの組織としては、構成員の代表で組織される総会及びEGTCを代表し,その利益のために活動する執行責任者(代表)をおくことが必要とされている。

 設立手続きについては、参加予定構成員の発議で行い、参加予定の各構成員は、事務局設置予定の加盟国に参加の意図を知らせるものとされている。そして加盟国は、EU規則又は国内法に従っていないとみなされるか、加盟国の公益あるいは公共政策の理由から正当でないとみなされない限り、参加構成員のEGTC への参加を3ヶ月以内に承認しなければならないとされている。

 EGTCの債務弁済等の責任について、EGTCは、その有する財産の範囲内にとどまらず、各構成員が最終的に全ての責任を負うといういわゆる無限責任を原則としている。従って構成員が最終的な責任を負わない株式会社等を始めとする通常の法人とは大きく異なっている。但し、各国の法制度を勘案して、制限的な責任しか負わないいわゆる有限責任の構成員を認めており、有限責任しか負わない構成員を含むEGTCは名称に「有限(limited)」の語を含める必要があるとされている。

 このようにEGTCは加盟国との関係で、一種の特別の地位を得ることになるが、加盟国のなしうることとしては次のようなことがある。事務所の置かれる加盟国の所轄官庁は、設立に関する通知等を受理・承認等し官報に公表すること、協約・規約の変更を承認すること、公的資金を管理すること、EGTCの活動がその目的や定められた業務の範囲を逸脱している場合には裁判所等に解散を申し立てること、などだ。また、各国は、EGTCが自分の国の公共政策・治安・公衆衛生・公衆道徳に関する規定や加盟国の公益に反する活動を行った場合、その領域内の活動を禁止し、あるいは自国の構成員を脱退させたりすることができるとされている。

 そして、各国は、この制度を効果的に運用するために、設立手続きの受け皿としての所管官庁を定めた規則等の整備を行うこととされている。

 さて、実際のEGTCの設立例であるが、たとえば、欧州地域アルプス−地中海(Euroregion Alps- Mediterranean)というグループの取り組みがあります。これは、アルプスや地中海に隣接するフランス中南部とイタリア西部が一緒になって、環境と自然破壊、交通と利便性、研究、改革・成長、雇用、文化と旅行、言語交流、生活の質、持続可能な発展、共同サービス・協調と連帯などのテーマを掲げ共同事業に取り組むというものだ。

 各国の地方自治体のために、EGTCを推進しているEUの機関はEU地域委員会である。EU地域委員会は、制度の紹介や運用方法についてのPRを行い、意見の取りまとめを行っている。また、エキスパートグループという支援組織を各国に置いている。その役割は、実例等の蓄積を行うほか実践者と組織を結びつける橋渡しをするものだ。

 この仕組みが、どの程度機能し、使い勝手の良いものになるかどうかは、今後の事例の蓄積を見守る必要があるが、EUという超国家組織ができて様々な知恵が生まれ、意欲的な仕組みが実験されつつあることにある種のダイナミズムを感じる。

 我が国も、例えば、長野県、富山県、岐阜県などの中部山岳に丸ごと跨る国際観光地域形成グループを作ってみたり、或いは、東アジアに目を向け同様の試みをしてみてもよいかもしれない。韓国の自治体と福岡県、台湾の自治体と沖縄県、ロシア沿海州と北海道などと考えていくとイメージが膨らむ。この場合、日本の地方自治体のノウハウや姿勢が試されることになる。東京を気にするばかりではなく、独自の視点で視野を広げて活動の範囲を拡大してもらいたいものだ。その中で、意外な掘り出し物が出てくるかもしれない。

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