むたい俊介
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長野2区 自民党

【メッセージ】
「非常時に際し選択肢の多様性を確保する意義」
〜国内石炭の再評価とガス圧利用による水門開閉に通じる思想〜

 エネルギー産業の歴史と現状に詳しい橘川武郎一橋大学教授の話を聞く機会があった。我が国のエネルギー産業の歴史を伺っていると、現時点の日本の立ち位置が分かりやすく理解できる。

 橘川教授は、3.11が起きたにも拘らず、原子力発電に関しては、リアルでポジティブな対応が求められると語る。

 原子力発電は使用済み核燃料の廃棄処分の問題が難問で、数千世代にわたる安全情報の情報伝達は無理であり、原子力はせいぜい今世紀半ばまでの過渡的エネルギーと位置付ける。その上で、原子力を捨てた状態で化石燃料の購入交渉を行うことは、日本は購入先との取引関係において圧倒的に不利な状態に置かれると力説する。

 新興国は原子力が必須なエネルギー源と位置付け、2035年には世界最大の原子力王国は中国になると見込む。現在、脱原発に突き進んでいる国は、「日独伊」の三国であり、これは戦前の3国枢軸同盟を彷彿させるとも指摘する。その中で、当面期待が持てる電力源は、石炭火力だと指摘する。その場合、北海道の釧路、夕張、石狩の旧炭鉱は再発掘の可能性が大きいと指摘する。

 さて、日頃マスコミの情報に接しているだけでは、原子力と再生可能エネルギーの両天秤でしかものを考えない陥穽に陥りがちの我々にとって、産業の歴史の系譜を踏まえての専門家の説明を受けると目の鱗が落ちる思いがする。

 局面は異なるが、私はある防災危機管理関係協議会の理事に就任しているが、2012年4月にその協議会主催のシンポジウムの司会を務めたことがあった。その際に、京都大学の名誉教授の方から、窒素ガスの圧力を利用し動力源とし水門を開閉するシステムが開発された旨の発表を伺う機会があった。

 たまたま、東日本大震災で、水門を閉めに海岸に赴き津波により命を落とした多くの消防団員の悲劇から教訓を得るため、総務省消防庁でも、人手に依らない水門の開閉、遠隔操作、非常用電源の確保などについてその対策を各方面に働き掛けているところである。

 電気を動力源にして重い水門を開閉することはこれまでも行われてきた。しかし地震により電源が確保できず、その場合に備えて非常用電源を確保することは大きな財政負担を要することになる。

 出来るだけ効率的にこれを確保する事に知恵が求められている中での、電力源に依らないガス圧を利用した水門開閉は、なかなか気がつかないアイデアである。

 窒素ガスの圧力を使いそれを動力源とするというアイデアは、求められる課題にピンポイントで答える技術である。窒素ボンベを複数備え、そこから窒素ガスをシリンダー内に送り込み、ピストン運動を回転運動に変換する。窒素ガスは電力を用いることなく噴射により起動できる。設置も維持も安価で、しかも安全であり、電力不足地域でも活用できる。

 これまで窒素はそのガスそのものを利活用することにのみ目が向けられていたが、その圧力という隠れた価値に目を向けることにこのシステムの意味がある。化学プラントメーカー関係者からは、化学プラントでは全電源喪失という事態に備えて、冷却装置の起動にガス圧を活用するシステムを既に実用化しているとの話も伺った。しかし、水門開閉の分野ではそうした仕組みの検討は皆無であった。

 このシステムに特許を有する会社は、実は元々は、水道にかかる水圧に目を付け、水道の蛇口から出る水の圧力を利用しエンジンを駆動するシステムを考案した。しかし、その水道も、大災害時には断水し、機能しない可能性があることから、大地震の際にも機能する圧力を利用できるガス圧に着目したということである。なお、遠隔操作に関しては、蓄電装置や太陽光パネルを利用した微弱電力の活用により、それを機能させることは容易である。

 東日本大震災を経て、「オール電化」政策の影で日の目を見ることが無かった様々なノウハウやアイデアが世間に出始めている。そしてその技術が次に到来する大災害の際に、比較的低コストにより、人命を救うシステムに繋がることが大いに期待できる。

 そして、このシステムは、そもそも平時からの電源確保すらも難しい開発途上国の水門開閉システムとしても非常に有効であり、日本の技術が開発途上国の災害時の被害軽減に役立つことにもつながり得ると信じる。

 化石燃料でコストが高いとされた日本の石炭資源に再脚光を与える視点と動力源としてガス圧に着目する視点は、非常時に選択肢を多様化しておくことの意味を教えてくれる。

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