「ローマ字表記でも日本人の名前は姓名の順で」

 私の役所の同期の長谷川彰一氏から、どうしても我慢ならないことがあり、東京オリンピック・パラリンピックの開催の機会に、何とかしてもらえないかという相談がありました。

 それは、日本を代表して出場する選手の名前のローマ字表記が、西洋流に名前が先で姓が後になっているということです。元来名前の表記は各々の人名固有の形式が生きる形で記述されることが望ましいという考えに基づくものです。

 長谷川氏は、内閣法制局勤務の経験を持つためか文章表現に高い見識を持つ人で、日本人の姓名が、ローマ字表記で名姓にひっくり返ることは不合理だとかねてから考えており、私も何度かお話を伺い、「そうだよね」、とあいづちを打っていました。

 日本人の名前でも明治以前の歴史上の人名は、西洋においても姓名の順に表記されるのが一般的のようです。そう言えば、「徳川家康」を「家康徳川」とは流石に言わないようです。

 なぜ姓名逆順の取り扱いとなったかについては、明治以降の近代化の過程で、西欧人の流儀に合わせた欧化思想があったと考えるのが一般的です。明治維新の時代、欧州使節団が帰国後、「姓名」を「名姓」にローマ字表記したとの言い伝えもあるようです。ところで、明治維新150年を過ぎ、そろそろ考え直した方がよい、その転換点が東京オリンピック・パラリンピックの機会だというのが長谷川氏の主張です。

 同じアジアの国でも中国、韓国は、姓が先で名前が後になっています。平昌オリンピックスピードスケート女子500Mで金メダルの小平奈緒さんはNao Kodaira、銀メダルの李相花さんはLee Sang-Hwa ですからその差については合理的な説明に窮します。

 実はこうした問題意識は我が国にもあり、平成12年の第22期国語審議会答申で、「日本人の姓名については、ローマ字表記においても「姓ー名」の順とするのが望ましいとされています。そして、世界を巡るサッカーの世界では、2012年より、日本人名のローマ字表記を原則として「姓ー名」の順に統一していくことになりました。国際化したっサッカーの世界では、自国の伝統、姓名の順が当然だと考えたのでしょう。

 この取り扱いの変更は、必ずしも法律による必要はないと考えられます。閣議決定などで、今後、官公庁や報道機関等において日本人の姓名をローマ字で表す場合や、学校教育における英語等の指導においても、そうした取り扱いになるように統一していく必要があります。

 それを転換する機会が、2度目の東京オリンピック・パラリンピックであり、世界に向けての我が国の姿勢転換を示す良い機会になると思います。私も様々な機会に、政界の要路に話を伝えてまいりたいと考えます。同期の長谷川氏の思いを、政治家としても叶えさせてあげたいと思います。


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