「戦後70周年の年を見送るにあたって」

〜白馬村の地震からの復興状況を見て考えたこと〜

 2015年の暮れも押し詰まった日、地震から1年余りを経た白馬村の仮設住宅にお住いの被災者の皆様を訪問して、復興の現状をお伺いした。被災した家々も新築が成り引っ越しの準備に勤しむ皆様の顔を拝見した。1年前の表情とは異なり、どの顔にも晴れやかな表情が見てとれた。地震からの復興は着実に進み、被害を受けたインフラ整備は急ピッチで進んでいる。特に国道406号線の復旧は早く、沿線の皆様から以前より便利になったとの言葉が寄せられた。農業施設被害などまだまだ残っている課題はあるが、地震後1年間における関係者の努力は素晴らしいものがあり、深く感謝申し上げたい。

 恐らく、こうした災害からの復旧のスピード、丁寧さという点で、我が国は世界に冠たるノウハウを身に着けていることは疑いのない事実だと思う。幸いなことに、我が国は戦後70年の歩みの中で国民の安全安心が高度なレベルで確保される国になった。しかしこれも国の政治・行政が安定しているから実現できているということを忘れてはならない。

 振り返って、我が国は欧米列強の植民地支配の現状を目の当たりにして、我が国自身は決して欧米の植民地にはならないとの決意の下、明治維新を断行して富国強兵に努力し、その結果70年余りを経過し、最後は先の大戦という惨禍によってそれまでの努力を灰燼に帰し、戦争により人口を減らすという事態を招いてしまった。戦後は平和主義を掲げ、国民の弛まぬ努力の下に、明治維新から戦争に至る同じ期間の70年の歳月の間に、世界に冠たる高度な文明国家を築き上げた。日本人ならではの独創的な科学技術は、21世紀に入ってからは科学系のノーベル賞の数でも米国に次いで世界2位の受賞実績を有するに至っている。世界に対する平和貢献、科学技術貢献などの点で日本は世界から極めて高い評価を得ていることを否定する人はいない。

 一方で、こうした発展の成果とは裏腹に、我が国は戦争に依らずして人口を減少させてしまうという逆説的な結果を招いてしまっている。我が国の発展の源泉に経済成長という土台があったことを考えると、人口減少とそれに伴う経済成長率の低迷は、我が国の将来のあり方に暗雲となって影を落とす。

 我々は、戦後70周年を経て、これからの時代の大きな課題を抱えて次の時代に突入しようとしている。政府が掲げる一連の政策である、地方創生、一億総活躍という目標は、こうした課題に挑むチャレンジである。こうした目標を実行していくためにも、国家の土台としての我が国の安全保障環境はしっかりと整備されなくてはならない。確固たる平和が確保されてはじめて、技術開発も経済成長も実現できるのである。その意味で、戦後70周年の年に平和安全法制が難産の末とは言え成立したことは、将来にわたる我が国の安全保障を強固なものにする観点から画期的であったと考えたい。

 内政面の最大の課題は、大都市部に集中した人口、特に若者を地方に分散していくことであると考えている。日本社会のシステムを分散型に大きく変える。最近のICTの急速な発展はそのことを十分に可能にしている。そうしたツールを駆使して、制度を変えていくことで、若者が生まれ育った地域に留まり、戻り、親との3世代4世代同居を可能とし、それによって子育て環境が改善され少子化に歯止めがかかるという効果も期待される。戦後の日本社会発展の見えざる枠組みであった、中央集権、東京一極集中を是正していくことが、今後の我が国社会の目指す大方向だと考えている。

 本年、光栄なことに私は長野県護国神社総代会長を仰せつかった。戦後70周年の年に総代会長を拝命したことに特に感銘を受けている。我が国の恒久平和を実現し、もうこれ以上遺族を増やさないための行動が求められていると感じている。来年、私は還暦を迎える。これまでの我が国と自分自身の来し方を振り返り、これからの行く末を見つめ、新たな10年に向けて誠心誠意踏ん張ってまいりたい。


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