「小・中学校の40人学級と教育環境の改善」

 義務教育の学級編制の基準は標準法により国がその標準を定めている。その学級編制は7次にわたる教職員配置改善計画により逐次改善が行われ、現在では40人を標準とする編制になっている。また、平成23年度からは小学校1年生について35人を標準とする制度が導入されている。

 40人学級と聞くと、全国の小中学校の学級人数が実際に40人になっているように連想するが、現実には平成22年度ベースで小学校の1学級の児童数は25.1人、中学校では29.0人が平均値となっている。実は平均で言えば、小中学校とも既に30人を割り込み、実質的には30人の学級編制の実態になっている。

 配置改善が行われる前(昭和33年時点)の水準と比較すると、小学校では19人以上、中学校では15人以上も1クラスの児童数が減少している。

 何故そうなるのか。それは、例えば、40人学級というのは40人を超える生徒数の学級を作らないために、あるクラスの生徒数が41人になるとそれを2分割し20人と21人のクラスに分けることになるからである。このケースでは、40人学級制度の下で20人程度の児童数の学級が生じることになる。これらの結果、全国平均では25人という平均児童数の学級が生じることになる。

 これが35人学級や30人学級になると、1クラス18人或いは15人というクラスが生じうることになる。1クラスの人数ではでサッカーや野球の対抗試合が出来ない人数になってしまう。

 「丁寧な学習指導」の観点からは少人数学級は望ましいかもしれないが、クラスの活動は学業からスポーツ、放課後の活動まで様々である。極端な少人数学級のあり様が一概に良いとは思えない。

 現在は少子化が進み、放っておくと40人学級の制度下では教員数も自然に激減という事態を生じかねない。そこで、「丁寧な学習指導」を行い得る少人数学級を推進することにより、結果として採用教員の減少を出来るだけ抑えたいという学校関係者の意図・苦労は分かる。しかし、本当にこれが教育上正しい考え方と言えるのか。

 私はもっと別のやり方もあり得るように思えてならない。授業にチーム・ティーチングの手法を取り入れ子供の学習理解を深める、その役回りに資質の高い教員や退職したベテラン教員を充てるといったことが考えられる。併せて、教師がより多く生徒に向かう時間を確保することを考えることは必須である。

 現在の小中学校の先生は忙し過ぎる。そしてその忙しさは、実は本来の生徒への学習指導によるのではなく、対PTA、対各種調査、対課外活動といった「本務外事情」に起因するところが多い。時間的・精神的に余裕のない中で日々苦悩しているのが小中学校の先生の実態ではないか。これからは教員免許の更新で更に忙しさが増す。私の父親も義務教育部門の教員であり、従兄弟が中学の先生でもあるが、昔の方が子供たちと向き合う時間が大変多かったように感じられる。

 私は消防庁防災課長時代に学校における実践的防災教育の推進を学校現場にも呼び掛けたところ、小中学校の先生から「これ以上我々の負担を増やさないでほしい」との悲痛な声が寄せられ、実際に小中学校現場の皆様の防災教育の勉強会への参加者は皆無であった。

 例えば、学校現場の防災面の対応は、事務職員の方が中心となって行い、その為の人員配置を、退職者や地域のボランティアの活用を含め厚みを持たせるということもありうる。PISAの評価が高いフィンランドでは、小中学校の教師が生徒への教育に専念できるように、教員のサポート体制が完備しているという話を、過日、防災教育のシンポジウムで大学の教授から伺った。

 我が国でも、教育現場の実際の苦労に合せたピンポイントの対応が求められる。教員の数を増やすために無理やり学級編制基準を緩和していくことは、結果として、例えば、不適格教員が採用増により教師として学校現場に入り込むなどの懸念も生じうる。学級編制基準の見直しは、その持つ副作用、コストベネフィットの観点からより多角的な検討が加えられて然るべきと考える。


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